運行コース別に手当支給、労基法の時間外見合い?
富士運輸事件 【東京高判 2015/12/24】
原告:元運転手の破産管財人 / 被告 会社(貨物自動車運送事業)
【請求内容】
雇用期間中の時間外労働、深夜労働及び休日労働に係る割増賃金の未払額およそ700万円相当の支払を求めて元運転手が訴訟提起。原審が棄却されたため、原告が控した。
【争 点】
運行コースごとに定められた各種割増手当と休日勤務手当(加算手当)は、労基法37条所定の計算による割増賃金の算定方法と同じものか。
【概 要】
被控訴人は、貨物自動車運送業等を目的とする会社で、控訴人は、元運転手の破産管財人である。トラック運転手の賃金体系は、基本給・歩合給(運行手当)、諸手当、割増賃金からなり、このうち割増賃金については、賃金規程において、各種割増手当と休日勤務手当(加算手当)があり、両手当の合計額は、法所定の計算による割増賃金以上の額とする旨規定。
運転手に提出させる、運行コースや待機等の業務内容を記載した運行報告書を元に各種割増手当の金額等を記載し、運転手に対しその写を交付した上で、給与の支払いを行っていた。
また、運転手の労働時間をデジタルタコグラフによって管理していた。
【確 認】
労基法37条は「労働時間を延長し、又は休日に労働させた場合においては、その時間又はその日の労働については、通常の労働時間又は労働日の賃金の計算額の二割五分以上五割以下の範囲内でそれぞれ法令で定める率以上の率で計算した割増賃金を支払わなければならない、・・・午後十時から午前五時までの間において労働させた場合においては、その時間の労働については、通常の労働時間の賃金の計算額の二割五分以上の率で計算した割増賃金を支払わなければならない。」と規定されている。
また、実際に支払われた割増賃金が、法所定の計算による割増賃金を下回らない限り、法所定の計算方法によらなくとも、労基法37条違反ではない。
労働新聞 2016/11/14 / 3088号より
【判決のポイント】
運行コースごとに、その走行距離等の内容に応じて定められた各種割増手当は、長距離コースであれば、深夜勤務を前提として設定されているなど、法所定の計算による割増賃金を下回らないよう規程されており、固定割増賃金には当たらず、労基法37条規定の算定方法と軌を一にするものである。
被控訴人では、運転手の労働時間をデジタルタコグラフによって管理し、各種割増手当額と、同条に規定する算定方法で算定される割増賃金の額との多寡を確認することもできる。
よって各種割増手当を持って割増賃金を支払うことは、労基法37条に抵触するものではない。
会社の規程・制度が整備され、労働時間管理に取り組んでいることが伺える。
【SPCの見解】
時間外労働のみなし手当として、固定賃金を支給する場合は、そのみなし時間を明確に決めておく必要があります。また、時間管理も徹底し、みなし時間を超えた労働については、別に計算した割増賃金を支払うことが求められます。
運転手にも、計算の根拠となる資料を付けて給与の支払いを行っていた被控訴人では、簡潔明瞭な賃金の支払いが行われていると考えます。
割増賃金の「基礎となる賃金」の算定において、算入されない賃金とされる、家族手当・通勤手当・住宅手当など以外で、歩合給でも割増賃金でもない手当は、固定給にかかる割増賃金の「基礎となる賃金」として含めるべき手当です。ただし、家族構成によらず一律で支給される家族手当なども固定給として判断されるため、割増賃金の算定の際には注意すべき点です。