売上高から残業代カットする歩合給算定の仕組みは
2017/05/19
国際自動車事件 【最三小判2017/2/28】
【請求内容】
上告人に雇用されていた被上告人らが、歩合給の計算に当たり残業手当等に相当する額を控除する旨を定める上告人の賃金規則上の規定は無効であり、上告人は、控除された残業手当等相当額の賃金支払義務を負うと主張して、上告人に対し、雇用契約に基づき、未払賃金の支払いを求めた事案である。
【争点】
歩合給の算定において残業手当等を控除する仕組みは、時間外労働をしていた場合もしていない場合も賃金が同額になる結果となり、労働基準法第37条の法の網をくぐることになるのか。
【概要】
歩合給の算定に当たり対象額Aから割増金に相当する額を控除している部分が労働基準法第37条の趣旨に反し、公序良俗に反し無効であるとのみ判断した原審に対し、通常の労働時間に当たる部分と同条の定める割増賃金に当たる部分とに判別することができるか否か、また判別することができる場合に、割増賃金として支払われた金額が、通常の労働時間に相当する部分の金額を基礎として算定した割増賃金の額を下回らないか否かを検討すべきと、差し戻した。
【確認】
◇労働基準法27条◇
出来高払制その他の請負制で使用する労働者については、使用者は、労働時間に応じ一定額の賃金の保障をしなければならない。
◇自動車運転者の労働時間等の改善のための基準について(93号通達)◇ 一部抜粋
(2)賃金制度等
自動車運転者の貸金制度等は、次により改善を図るものとすること。
イ保障給
歩合給制度が採用されている場合には、労働時間に応じ、固定的給与と併せて通常の賃金の6割以上の賃金が保障されるよう保障給を定めるものとすること。
労働新聞2017/4/17/3109号より
【判決のポイント】
労働基準法第37条は、労働契約における通常の労働時間の賃金をどのように定めるかについて特に規程していない。本件労働契約において、売上高等の一定割合に相当する金額から、法に定める割増賃金に相当する額を控除したものを通常の労働時間の賃金とする旨が定められていた場合でも、当然に法の趣旨に反し、公序良俗に反し無効と解することはできない。
また、同条は法内時間外労働や法定外休日労働に対する割増賃金を支払う義務は課していない。
原審の判断には、割増賃金に関する法令の解釈適用を誤った結果、審理を尽くさなかった違法があるといわざるを得ず、割増部分判別のため差し戻した。
☆国際自動車の賃金規則に基づく簡易算出例☆
歩率50%を歩合給と定め、1ヶ月の平均所定労働時間が170時間とした場合
売上げ68万円
□残業0時間の場合・・・歩合給は34万円
□残業20時間なら・・・歩合給は34万円-8,945円=33万1,055円
支給総額:33万1,055円+8,945円=34万円
(時間単価:34万円÷(170+20時間)=1,789円 割増賃金:1,789円×20時間×25%=8,945円)
□残業40時間なら・・・歩合給は34万円-16,190円=32万3,810円
支給総額:32万3,810円+16,190円=34万円
(時間単価:34万円÷(170+40時間)=1,619円 割増賃金:1,619円×40時間×25%=16,190円)
※売上げが同じである限り、時間外労働等を行っても従業員への賃金の支給総額が増加しないことになるのは、残業手当等が支払われないことによるものではなく、基本給及び服務手当に加算して支払われる歩合給の額が一定の売上げをあげなければ能率に応じて低下するルールとなっていることによる。
【SPCの見解】
歩合給制度の場合、歩合給によって計算された賃金の総額を当該賃金算定期間における総労働時間数で除した金額に時間外労働時間を乗じた額が都道府県ごとに定められた最低賃金額を下回ることはできません。
歩合給の割増賃金は、
歩合給 ÷ 当該賃金算定期間における総労働時間 = 時間単価
時間単価 × 残業時間 × 25%
で算出します。
また、歩合給制度の保障給としては、「歩合給制度が採用されている場合には、労働時間に応じ、固定的給与と併せて通常の賃金の6割以上の賃金が保障されるよう保障給を定めるものとすること。」との自動車運転者の労働時間等の改善のためのの基準について通達も出ているため、歩合給制度を導入している場合には、この点にも注意が必要です。
判例のとおり、労働基準法第37条は労働契約における通常の労働時間の賃金をどのように定めるかについて特に規程していないため、揚高から経費に相当する部分を控除したものを「通常の賃金」として算定することは不合理ではないと言っています。法により定められた方法により算定した割増賃金の額を下回っているのかいないのか、今後の差し戻し審に注目したいと思います。