管理監督者と年俸制の割増賃金
2016/02/23
HSBCサービシーズ・ジャパン・リミテッド事件 【東京地判 2011/12/27】
原告:労働者X / 被告:会社(Y社)
【請求内容】
Xは試用期間中3ヶ月の未払い残業代とその付加金の支払いを請求した
【争 点】
Xは管理監督者といえるか?そうでないとしても、残業代は年俸に含まれていると考えてよいか?
【判 決】
職務内容等から管理監督者ではなく年俸に残業代を含むという主張も無効で、残業代約300万円の支払いを命じた。
【概 要】
XはY社に年俸1,250万円でヴァイス・プレジデントとして中途採用されたが、3ヶ月の試用期間満了時に本採用を拒否された。本件訴訟で解雇無効を訴えたが棄却されたが、さらにXは未払い残業代とその付加金の支払いを請求した。
Y社は「Xは労基法41条の管理監督者であるか、もしそうでないとしても割増賃金を年俸に含める合意が成立していたため、残業代の支払いは不要」と主張した。Xには部下にあたる社員はいなかった。
【確 認】
【年俸制を採用する際の注意点】
年俸制でも労働時間が規定(1日8時間、週40時間)を超えた分は残業代を支払わなければならない。
年俸に一定の残業手当を含めるには、以下のような条件が必要である。
● 時間外労働等の割増賃金が年俸に含まれていることが労働契約に明示されていること
● 年俸に含められた割増賃金が時間外労働の何時間分なのかが明示されていること
● 通常の労働時間の賃金と時間外割増賃金が区別されていること
※通常は割増賃金の単価に賞与は含めないが、年俸制の場合は「年間賞与÷12」を月給として含めて計算する。
【判決のポイント】
<管理監督者とは> 労働基準法41条2号(労働時間等に関する規定の適用除外)
会社で「管理職」と呼ばれている人が、必ず労働基準法の「管理監督者」に当てはまる訳ではないので注意が必要である。労働基準法上の「管理監督者」と認められる者には残業代の支払いは不要であるが、その要件は極め て厳しい。実態として、以下の3つの基準を満たしているか否かで判断する。
①職務内容が少なくともある部門の統括的なものであって、部下に対する労務管理上の決定等に裁量権があること
②自己の出退勤を始めとする労働時間について裁量権を有していること
③一般の従業員に比してその地位と権限にふさわしい賃金上の処遇を与えられていること
【日本マクドナルド事件(東京地判平20.1.28)】
管理監督者性についての裁判として有名なものに「日本マクドナルド事件(東京地判平20.1.28)」がある。
マクドナルドの現役店長が管理監督者として時間外・休日割増賃金等が支払われていなかったため、同社に対し、未払いの時間外・休日割増賃金の支払い等を求めた事件で、労働者側が勝訴している。
(この事件が発端となり「名ばかり管理職」という言葉が2008年の流行語大賞に選ばれる等社会現象となった。)
ただし、この判決には専門家からの批判も多く、特に「企業全体の事業経営に関する重要事項に関与している」という管理監督者の認定要件はあまりにも厳しく、労働基準法を逸脱しているとの意見も多い。
【SPCの見解】
■今回は、原告の年収が「1,250万円」とかなり高額であったにも関わらず管理監督者性が認められなかった。原告には部下もおらず部門を統括するような業務内容でもなかったことから、上記①の要件を満たせなかったことが大きな要因である。管理監督者と認められるための要件はかなり厳しく、例え①を満たしていても③が満たせないという場合も多いだろう。回避策としては、定額の「みなし残業代」を導入し、一定時間の残業代を支払っていると主張できるようにすることであるが、現在の賃金の総額を変えないまま「みなし残業代」を導入することは「不利益変更」にあたるため、数年間の調整期間を設けて賃金制度の再設計を試みるのもひとつの手段である。
労働新聞 2012/7/23/2882号より