雇用継続への合理的期待は途中で消滅してしまうのか?
2016/02/23
報徳学園(雇止め)事件 【大阪高判 2010/02/12】
原告:学校(控訴人) / 被告:常勤講師X
【請求内容】
「学校が常勤講師Xを更新上限3回で雇止めしたのは無効である」とした一審判決を不服として学校側が控訴した
【争 点】
労働者Xの抱いた雇用継続(専任教諭への転換)への期待は合理的か?
(判断は当初の契約時か?雇止め時か?)
【判 決】
一般的に学校は教師を有期雇用で採用することに合理性があるから、Xの雇用継続への期待には客観的根拠がない。
【概 要】
Xは雇用契約1年の非常勤講師として採用され、校長から「1年間頑張れば専任教諭になれる」等と言われたことから、無期契約である専任教諭となり、雇用が継続されると期待していた。しかし、その後校長から「常勤講師契約は3回まで」「専任教諭採用については白紙」等と告げられ、期間満了により雇止めされた。Xはこれを不服として学校を訴えた結果、第一審ではX勝訴(雇止め無効)という判決となった。学校側はこれを不服として控訴した。
【確 認】
【労働契約法第19条】「雇止め法理」の法定化 (※)但し本件判決時には法定化されておらず判例法理であった。
次の①、②のいずれかに該当する有期労働契約者の雇止めは、「客観的に合理的な理由」と「社会通念上の相当性」が必要であり、それが認められない雇止めは無効である。(従前と同一の労働条件で契約が更新される)
①過去に反復更新された有期労働契約で、その雇止めが無期労働契約の解雇と社会通念上同視できると認められるもの
②労働者において、有期労働契約の契約期間の満了時に当該有期労働契約が更新されるものと期待することについて合理的な理由があると認められるもの
【判決のポイント】
【判決のポイント】
<一審判決:常勤講師側の勝訴> 雇止めが無効とされた理由は以下の通りである。
①常勤講師制度は、専任教諭採用のための「試用期間という趣旨」で導入されたものであること、そして校長がXに「1年間頑張れば専任教諭になれる」と伝えていること等から、Xの雇用継続への期待には合理性がある。
②「雇用継続に関し強い期待を有していたことが認められ、かつ、上記期待を有するにつき高い合理性があると認められる」場合、「このようなXの期待利益が遮断され又は消滅したというためには、雇用の継続を期待しないことがむしろ合理的とみられるような事情の変更があり、または、雇用の継続がないことが当事者間で新たに合意されたなどの事情を要する」⇒ 本件では、特にそういった事情は見当たらない。
③「常勤講師契約は3回まで」という内規は、Xが期待を抱いた後に提示されたもので、認められない。
<二審判決:学校側の勝訴> 一審とは判断が逆転し、雇止めが有効とされた理由は以下の通りである。
①常勤講師制度は、専任教諭採用のための「試用期間」とは認められない。期間の定めのある教員を雇用するのは年度ごとの生徒数や教科編成の変動等に対応するためであり、社会の実態を反映したものである。
②当初の契約時点では、Xには合理的な期待があったかもしれないが、それは主として校長の言動に基づく主観的なものであって、常任講師制度の目的などからの客観的根拠があったわけではない。更新も多数回ではない。
③その後2度にわたって専任教諭に採用されず、校長からも「常勤講師契約は3回まで」「専任教諭採用については白紙」などと告げられたことや、他の常勤講師が雇止めになっていることを考慮すれば、少なくとも平成18年時点では、Xの期待は減弱ないし消滅していたものと認めるのが相当である。
【SPCの見解】
■契約法19条により、有期雇用契約労働者に対して会社が「更新を期待させるような言動」をすると、労働者が「合理的な期待」を抱き雇止めが認められにくくなってしまうが、本件は19条より若干使用者寄りの解釈がされているので、そのまま参考にすることはできない。本件は、学校と教師の紛争であるという点に特殊性があり、「教師」は職種の特性として(生徒数増減等に対応する為)必然的に有期雇用契約で採用することがあるものであるから、そういう場合は継続雇用の合理的期待も認められにくくなるということである。しかし、一般企業で必然的に有期雇用とならざるを得ない職種というのはあまり想定されないため、期待を抱かせるような言動にはやはり注意が必要である。
労働新聞 2013/5/27/2922号より