残業85時間で過労死、持病も複数あり業務外?
2018/03/03
半田労基署長事件【名古屋高判平29・2・23】
■請求内容
労働者Xが虚血性心疾患で死亡したことは、T社の過重労働に起因するとして、その妻が労災保険法に基づく遺族補償給付等を請求した。
■争点
基礎疾患を有している人の時間外労働による過労死の労災認定は有効か?
■概要
心疾患発症前の残業数は認定基準を満たさず、複数ある持病の影響も否定できないとして一審で労災不支給とされた遺族が控訴した。
■確認
≪脳・心臓疾患の認定基準≫
脳・心臓疾患は、その発症の基礎となる動脈硬化、動脈瘤などの血管病変等が、主に加齢、食生活、生活環境等の日常生活による諸要因や遺伝等による要因により形成され、それが徐々に進行及び増悪して、あるとき突然に発症するものであるが、仕事が特に過剰であったために血管病変等が著しく増悪し、その結果、脳・心臓疾患が発症することがある。
このような場合には、仕事がその発症に当たって、相対的に有力な原因となったものとして、労災補償の対象と認定される。
≪労働時間の評価の目安≫
疲労の蓄積をもたらす最も重要な要因と考えられる労働時間に着目すると、その時間が長いほど、業務の過重性が増すところであり、具体的には、発症日を起点とした1か月単位の連続した期間をみて下記より判断する。
- 発症前1か月間ないし6か月間にわたって、1か月当たりおおむね45時間を超える時間外労働が認められない場合は、業務と発症との関連性が弱いと評価できること
- おおむね45時間を超えて時間外労働時間が長くなるほど、業務と発症の関連性が徐々に強まると評価できること
- 発症前1か月間におおむね100時間又は発症前2か月間ないし6か月間にわたって、1か月当たりおおむね80時間を超える時間外労働が認められる場合は、業務と発症との関連性が強いと評価できること
≪時間外労働時間≫
労災の認定に当たって判断する時間外労働は,残業代請求の場合と算定方法が異なる。 時間外労働時間は,1週40時間を超える労働時間のことをいい、1か月間は,30日間として算定。精神障害(過労自殺)の労災認定基準も同様とする。
【判決のポイント】
Xはうつ病に罹患しており、当時早期覚醒の症状が加わっていた。このことについて名古屋高裁は「上記の時間外労働による負荷にうつ病による早期覚醒の症状が加わって、更に睡眠時間が減少したものと認められるから、Xは、発症前1か月間、睡眠時間が1日5時間程度の睡眠が確保できない状態、すなわち、全ての報告においても脳・心臓疾患の発症との関連につき有意性が認められる状態であったことは明らかである。」「すなわち、Xは、発症前1か月間において、うつ病にり患していない労働者が100時間を超える時間外労働をしたのに匹敵する過重な労働負荷を受けたものと認められる。」などと指摘した。
そのうえで、Xが心停止に至ったことについて、時間外労働と心停止との間に相当因果関係を認め、業務起因性を認めたものである。
【SPCの見解】
今回の判決では、特に労働時間について100時間に満たない場合にも業務起因性を認める余地があり、認定基準の意義を正しく指摘された。
過重労働による健康障害の防止のためには、日頃から時間外・休日労働時間の削減、年次有給休暇の取得促進等のほか、事業場における健康管理体制の整備、健康診断の実施等の労働者の健康管理に係る措置の徹底が重要となる。また、やむを得ず長時間にわたる時間外・休日労働を行わせた労働者に対しては、医師による面接指導等を実施し、適切な事後措置を講じることが必要となる点も留意しておきたい。