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私生活上の非行による退職金減額は何割が妥当か?

      2016/02/23

NTT東日本事件 【東京高裁 2012/09/28】
原告:労働者X  /  被告:会社

【請求内容】
第一審の「退職金の55%減額判決」を不服として、労働者側、会社側双方が控訴したもの

【争  点】
私生活上の犯罪行為を理由とした「退職金の減額」はどの程度することができるか?(全額不支給も可能か?)

【判  決】
事件が解決済みであることや、Ⅹのこれまでの功労などを総合考慮すると、退職金7割減額が相当である。

【概  要】
Ⅹは、自転車で通行中の女子高生に対しわいせつな行為をした後、両肩付近を両手で突き飛ばして路上に転倒させ、加療1ヶ月の傷害を負わせた。この件はⅩ逮捕後に会社名を含めて広く報道され、会社はお詫びのコメントを出した。Ⅹは合意退職をしたが、会社が退職金を不支給としたことを不服として、その支払いを求めて提訴した。第一審では、Ⅹの今までの功労等を総合考慮して「退職金5割5分減額が相当」としたが、両者これを不服として控訴した。

【確  認】
【私生活上の非行を理由として懲戒処分をできるか?】
会社の就業時間外に行われた非行行為は、基本的に当事者間の問題であり、原則会社が懲戒処分の対象とすることはできない。しかし、例えばこの非行行為がマスコミにより世間一般に公表されたこと等により、会社の信用や社会的評価を著しく低下させた場合は、その回復等の趣旨から、その従業員を懲戒処分することができる。(限定的)
但し、非行行為の程度と処分の重さのバランス(処分の相当性)は問われるので、処分内容には検討を要する。
▼この事件の第一審判決は以下参照:「(2012.10.10)私生活上の非行を理由に退職金を不支給にできるか」
https://www.jinjiken.co.jp/blog-spc-repo/blog/archives/40

 

【判決のポイント】

1)退職金を減額するために必要なこととは?
必ず就業規則等で規定しておくことである。本件の会社の退職金規程には「退職手当が支給される前に在職期間における非違行為が発覚し、退職日までに懲戒処分が確定されない場合であって、かつ、その行為が懲戒解雇または諭旨解雇にあたると思科される場合は、その非違行為について、退職後においても懲戒に相当するか否か審査され、その結果、懲戒解雇または諭旨解雇に相当することとなる場合には、退職手当の支給を制限される」という条項があった。このような根拠なくされた退職金の減額は無効とされる恐れがあるため、是非参考にしてほしい。

2)私生活上の犯罪行為にも関わらず、会社による懲戒処分や退職金減額が認められたのは何故か?
① 本件犯罪行為自体が、相当強い非難に値する行為であること。
② 複数のマスメディアに事件が報道され、雇用主としての謝罪コメントを求められる等により、会社の名誉や信用が失墜させられたこと。
③ 報道対応や任意捜査への協力によって、業務への支障が現実に生じたこと。

3)全額不支給が認められず、7割減額(3割支給)となった根拠とは?
※第一審は5割5分減額(4割5分支給)
① 犯罪行為が私生活上の非行であること。
② 被害者との示談が成立して、民事上、道義上の責任については解決済みであること。(刑事事件についても刑事上の制裁を受けている)
③ 会社が被害者に使用者責任を問われるものではなかったこと。
④ Ⅹは今まで一度も懲戒処分を受けたことがないこと
※退職金不支給は勤続の功労を抹消するほどの著しく信義に反する行為があったときに限定される。

【SPCの見解】

■二審では、退職金全額不支給は認められなかったものの、一審の5割5分減額から7割減額に減額幅が増加しており、労働者側にさらに厳しい判断となった。退職金は「賃金の後払い的性質」と「功労報償的性質」の両方があるため、非違行為による懲戒解雇が有効であったとしても、退職金を全額不支給にすることは難しいと考えた方がよいだろう。特に非違行為が起こる前まではいたって真面目に勤務していた者であった場合は余計に困難だと思われる。一審で退職金全額不支給が認められた「小田急電鉄事件」も、二審では「勤続の功を考慮して7割減が妥当」とされていることを考えると、重大な非違行為があった場合でも、7割減が限界のように思う。(もちろん就業規則の規程は必須)

労働新聞 2013/7/1/2927号より

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