過重労働による自殺と会社の責任
2016/02/23
日本赤十字社事件 【甲府地判 2012/10/02】
原告:Xの妻と子供 / 被告:会社
【請求内容】
Xが自殺したのは長時間かつ過密な業務に従事させられ、何らの配慮もされなかった為として遺族が損害賠償請求。
【争 点】
業務とXの自殺との間に因果関係はあったのか?
【判 決】
自殺前の時間外労働は166時間/月を上回り、自ら業務量を調整することは困難であったとして業務起因性を認めた。
【概 要】
介護職に従事していたXが自殺により死亡したことについて、遺族が「Xが長時間かつ過密な業務に従事していたにも関わらず、会社はXの心身の健康を損なうことがないよう配慮する措置を何ら採らなかったため、うつ病エピソードを発症し、自殺するに至った」として、会社に対し、不法行為ないし債務不履行に基づき、合計8,895万円余の損害賠償請求をした。Xの自殺直前1ヶ月の時間外労働は166時間に及んでいた
【確 認】
【精神障害の労災認定件数が475件(前年度比150件増)と過去最多】
(H25.6.21 厚労省労働基準局労災補償部)
厚労省は、仕事による強いストレスなどが原因で発病した精神障害の状況について、労災認定された人が2012年度は475人と前年度より46%増え、3年連続で過去最多を更新したと発表した。発症の原因は、「仕事内容・量の(大きな)変化」が59件で最多であり、「(ひどい)嫌がらせ、いじめ、又は暴行を受けた」55件、「悲惨な事故や災害の体験、目撃をした」51件と続く。また、認定された人のうち自殺者・未遂者は93人と過去最多だった。
▼平成24年度「脳・心臓疾患と精神障害の労災補償状況」まとめ
http://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/2r98520000034xn0.html
【判決のポイント】
1)会社側に安全配慮義務違反があったか?
①使用者は、労働者が業務による疲労や心理的負荷等が過度に蓄積して、心身の健康を損なうことがないよう注意する義務を負う。(管理監督者も、この注意義務を意識して権限を行使すべきである)
②労働者Xのは、自殺前1か月の時間外労働が166時間に及んでおり、会社もタイムカードによって、Xの長時間労働を認識していたことから、自殺についての予見可能性があったといえる。 ⇒ 義務違反あり。
2)業務とXの自殺との間に因果関係はあったのか?
①Xの自殺前1か月間の時間外労働時間は166時間を上回っており、業務と発症との関連性が強いとされている発症前1か月間に概ね100時間(脳血管疾患及び虚血性心疾患等の認定基準)という時間外労働の基準を大きく超えるものであった。また、Xが自ら適切な業務量を調節することは困難だった。
②業務以外にXがうつ病エピソードの発症及び本件自殺の原因となる事情(借財,病気,家族・交友関係のトラブルなど)が特段見受けられなかった。 ⇒ 因果関係あり。
3)過失相殺はされるか?
会社は、明らかに過大な労働時間と業務を抱えていたXに対して、何らこれを軽減・支援する態勢を整えなかったことから、Xの自殺は自分の意思によるものとはいえ、業務の加重によって自殺を思いとどまることが困難な状況に追い込まれていたものといえるのであって、これらをもってXの過失を認める事情と解することはできない。
【SPCの見解】
■労働者が業務終了後も(同僚の業務終了を待つ等の理由で)ダラダラと社内に留まり、実際の労働時間とタイムカードの時間がかけ離れるということはあり得ることであるが、それは「会社側が、明確な証拠を提示して証明するべきである」とされ、証明できない場合は、タイムカードの時間が実際の労働時間であると推定すべきとされている。その証明は容易ではないため、日頃の管理が重要である。また、労働者がうつ病の症状を発症して自殺に至った場合の会社の責任についても「うつ病発症を知らなかったことは、自殺の予見可能性には関係ない(労働実態から予想できたはずだ)」とされており、これも日頃の労働時間管理と、それに伴う配慮措置が重要であることを示している。
労働新聞 2013/6/24/2926号より