定額残業代上回るか確認ができないと精算求める
2018/11/05
日本ケミカル事件 裁判年月日:平成30年7月19日 法廷名:最高裁判所第一小法廷
請求の内容
薬剤師として勤務していた労働者が、定額残業代を上回る手当の支給があったか確認できないとし、時間外・休日・深夜の割増賃金等を求めて会社を提訴した。相当する時間数や割増単価が不明な定額制は無効であり、労働者が割増賃金を上回るか認識できる仕組みが必要とした判決の上告審
争点
時間外労働等の対価であると明示された業務手当が固定残業代として有効か
判決
手当が時間外労働等の対価である旨、雇用契約書や賃金規程に記された業務手当は、時間外労働に対する対価として支払われていたと認められる。
【判決のポイント】
基本給や諸手当にあらかじめ含まれることにより割増賃金を支払う方法自体が直ちに労基法37条に反するものではない。
時間外労働の対価が支払われているか否かは、雇用契約書等の記載内容のほか、具体的事案に応じ、使用者の労働者に対する当該手当や割増賃金に関する説明の内容、労働者の実際の労働時間等の勤務状況などの事情を考慮して判断すべき。
原審で判示された、定額を上回る額の時間外手当が発生した場合に、直ちに支払を請求することができる仕組みが備わっており、誠実に実行されているほか、基本給と定額残業代の金額のバランスが適切であり、その他法定の時間外手当の不払いや長時間労働による健康状態の悪化など労働者の福祉を損なう出来事の温床となる要因がない場合などに限られている事が、割増賃金を支払ったものというための必須事項であるとは解されない。
【SPCの見解】
割増賃金として法定以上の金額が支払われている場合、労基法37条違反とはならないが、固定残業制(みなし残業代)を採用するには下記の点に注意したい。
・賃金のうち、みなし残業代がどの部分なのか明確にする。
賃金規程のみならず雇用契約書にも明示し、固定残業代に相当する手当の名称には、「時間外手当の代わりとして支給する」など明記し、労働者に誤解の無いようにする。
・残業時間がみなし残業代に対応する時間数を超えた場合は追加で支給する旨を明示する。
追加支給の明示は労基法37条を満たすための条件ではないが、職業安定法の指針では、労働者を募集する際には、定額残業代の計算方法(定額残業時間および金額)、残業代を除いた基本給の額、不足が生じた場合に割増賃金を追加で支払うことを明示すべきとしている。
・みなし残業手当が、何時間分として支給する等の記載は必須ではない。
テックジャパン事件(最一小判H24.3.8)の補足意見では、定額残業代について、時間数を明示し、時間外労働の実時間数とその残業の手当の額が明示され、また不足の場合は差額を支給する旨が明示されている必要があるとされたが、本判決で、このような条件は適法要件として求められているものではないことが明確となった。
泉レストラン事件(東京高判H30.5.24)では基本給、業務手当、資格手当の各三割を固定残業代とし、時間数の特定はなかったが有効とされた。
・基本給とみなし残業手当の金額のバランスを考え、36協定の特別条項で定められた時間相当を超える金額設定とすることは控える。
本判決では、実際の時間外労働等の状況と大きく乖離するものではないことを考慮要素とした。
みなし残業手当が高額で、100時間を超えるような長時間の時間外割増に相当する手当は長時間労働を予定していたとして公序良俗違反とされる場合がある。