年功序列賃金から成果主義への変更は不利益変更なのか?
2016/02/23
三晃印刷事件 【東京高裁 2012/12/26】
原告:労働者Xら12人 / 被告:会社
【請求内容】
職能資格制度の導入より賃金が減少したことは、就業規則の不利益変更であり無効として減額した賃金を請求した。
【争 点】
本件の就業規則の変更による賃金制度の変更は、合理性のない不利益変更として無効か?
【判 決】
本件の就業規則の変更は高度の必要性に基づいた合理的な内容で、労働契約法10条の要件も満たされており有効。
【概 要】
会社は就業規則の変更により、従来の年功序列型賃金制度から人事考課により賃金を支払う職能資格制度へ変更した。これは業界の技術革新に対応する従業員のモチベーション向上などを意図したものである。会社は、激変緩和措置として6年間もの間、制度改定により減額した賃金差額を調整手当を支給していたが、その後1年かけて調整手当を段階的に削減した。削減分は昇給やベア原資に充てることとしており、賃金原資(人件費)総額の減少はなかった。
【確 認】
【就業規則の変更による労働条件の変更】<労働契約法10条>
使用者が就業規則の変更により労働条件を変更する場合は、以下の要件を満たす必要がある。
1)変更後の就業規則を労働者に周知させること
2)就業規則の変更が、以下の点に照らして合理的であること。
①労働者の受ける不利益の程度
②労働条件変更の必要性
③変更後の就業規則の内容の相当性
④労働組合等との交渉の状況
⑤その他の就業規則の変更に係る事情
※ 契約法10条による労働条件変更には(合理的ならば)労働者の個別の同意は不要で、契約法9条の例外規定である。
【判決のポイント】
<就業規則変更による労働条件不利益変更の有効性> (上記「確認」の2の①~⑤について検討する)
① 労働者の受ける不利益の程度について
・ 勤務年数の長い労働者を中心に、最も重要な労働条件である賃金について重大な不利益を受けるものである。
② 労働条件変更(職能資格制度の導入)の必要性について
・ 会社の売り上げが、出版不況の影響で大幅に減少してきている。
・ 印刷業界のデジタル化に対応するための人材確保や育成が必要だが、旧制度の年功序列型賃金では、勤務経験の短い労働者の昇給額は少ないという実態があり問題であった。
・ 以上から、「労働者のモチベーション向上、生産性向上、会社組織の活性化」は必須で、高度の必要性があった。
③ 変更後の就業規則の内容の相当性について
・ 職能資格制度を採用する以上、調整手当の削減等は避け難いものであり、不合理とはいえない。
・ 調整手当は6年間も支給されており、激変緩和措置がしっかりととられている。
・ 調整手当の削減分は、昇給やベア原資に充てることとしており、賃金原資総額は減少していない。
④労働組合等との交渉の状況について
・ 会社は組合に対し、団体交渉等において、調整手当を削減する方針を打ち出すに至った経緯を説明した。
<まとめ>
確かに賃金に重大な不利益を受ける者がいるが、変更の必要性や内容の合理性を総合考慮すると、本件就業規則の変更は「高度の必要性」に基づいたものであり、労働契約法10条所定の要件も満たしているといえる。
【SPCの見解】
■「年功序列型」は日本の典型的な賃金制度であったが、国際競争の激化等による制度維持の困難や、若者のモチベーションを下げる等の理由から、成果主義への転換をするケースが増加し、それに伴うトラブルも増加している。裁判所は成果主義導入自体には合理性を認めることが多いが、導入した制度の内容(不利益の大きさ等)や、導入手続きの過程に問題があるとして無効とされたケースもあるので注意が必要である。「激変緩和措置」については、少なくとも制度導入から1年間は、従前の賃金額との差額を調整手当等で支払うのが良いだろう。また、賃金原資総額を大きく変化させない(分配方法を変えただけ)ように配慮することも、制度変更の有効性を高める上で重要である。
労働新聞 2013/7/8/2928号より