完全歩合給で採用、規程は固定給のみで効力は
大島産業事件 (福岡地判 平成30年9月14日判決)
【 事案の概要 】
①トラックの元運転手(X)が、賃金規程にない歩合給が適用されたとして、会社(Y社)に対して未払い賃金等を求めた事案。
②また、YはXが業務指示を受けていた運送業務を無断で放棄したため、運送業務を履行できず損害を被ったとして、不法行為に基づく損害賠償を求めた事案である。
【 争点 】
① Y社は就業規則や賃金規程では、基本給は日給月給とされ、トラック運転手に特別の定めは無かった。
トラック運転手に就業規則の適用の有無。
② Xは平成25年9月28日の点呼後、運送業務を履行せず失踪し、同年10月5日にY社に戻って勤務を再開した。
失踪に関する損害賠償責任の有無。
【判決のポイント】
【 判決ポイント 】
① 労契法7条では、
『労働者及び使用者が労働契約を締結する場合において、使用者が合理的な労働条件が定められている就業規則を労働者に周知させていた場合には、労働契約の内容は、その就業規則で定める労働条件によるものとする。ただし、労働契約において、労働者及び使用者が就業規則の内容と異なる労働条件を合意していた部分については、第十二条に該当する場合を除き、この限りでない。』とされ、
労契法12条では、
『就業規則で定める基準に達しない労働条件を定める労働契約は、その部分については、無効とする。この場合において、無効となった部分は、就業規則で定める基準による。』としている。
② Y社は9月28日及び9月30日にXに運送業務を行わせる予定であったが、
9月28日は履行不能、9月30日は別の運転手に代行させたが、代行した運転手が本来行う予定で有った業務が履行不能となった。
労働者は指示された業務を履行しないことによる、使用者の損害を回避または減少させる措置をとる義務を負うが、Xはそのような行為をしなかった。
【SPCの見解】
【 まとめ 】
Y社は就業規則等作成当初は土木工事に従事する従業員を想定し作成されていた。しかし、その後運送業を営むようになった。
本来の就業規則とは賃金だけでなく、始業終業、所定労働時間も異なっており、適用するとの判決には疑義が残る。(労基法89条の作成義務違反として処理することも考えられる。)
労働者の乗務拒否による損害賠償責任に関しては、損害の公平な分担という見地から信義則上相当と認められる限度において、損害の賠償又は求償の請求をすることができるとする判例がある(茨石事件 最一小判昭和51年7月8日)
今回は労働者に対する損害賠償を制限する事情がないと判断され、損害額の全額が認められた。
上記2点以外でも、報道でパワハラに関する報道もあり、裁判官への印象としてはあまり良くはなかったかと思われます。
今回のように就業実態が変化した場合などには、適した就業規則の作成が実務上重要となってくる。
また、使用者が被った損害について、損害額の計算方法のあり方および請求権の行使を制限すべき事情がないとした判例として参考となる。