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能力不足による降格・降給は許されるのか?

      2016/02/23

ブランドダイアログ事件 【東京地判 2012/08/28】
原告:労働者X  /  被告:会社Y

【請求内容】
①懲戒解雇無効による地位確認 ②降格・降給処分無効による地位確認、降給前の給与支払い
③不法行為の慰謝料

【争  点】
本件の、①懲戒解雇、②降格・降給処分は有効か? ③懲戒解雇は不法行為にあたるか?

【判  決】
①懲戒解雇、②降格・降給処分は無効である。
③Ⅹの顧客データ漏洩にも問題があり不法行為までは成立しない。

【概  要】
Ⅹは、Y社に月額給与48万円で、部長職として中途採用されたが、採用から9ヶ月経過した時点で「現在の役職・給与額は採用前の見込み能力に基づいたものだが、Xの職務遂行能力が他の社員より格別に優れているとは判断できず、部長職としては不適格」として部長職から降格させ、部長手当5万円削減の降給を行った。さらにY社はその1週間後に、Ⅹが顧客データを無断で漏洩したことは就業規則規程の懲戒事由に該当するとして、Ⅹを懲戒解雇した。

【確  認】
【降格】(人事権の行使によるものなのか、懲戒処分なのかによって、有効性の判断基準も異なる)
1)職位引下げとしての降格【昇進の反対措置】(例:部長から課長へ)
就業規則などに根拠規定がなくてもできるが、降格に「労働条件の改悪」が伴う場合は認められない場合もある。
2)職能資格制度下での職能引下げとしての降格
① 資格を低下させるもの【昇格の反対措置】 ② 等級を低下させるもの【昇級の反対措置】
就業規則等の明確な根拠規定が必要で、基本給の引下げを伴うのが通常であるため、より厳格な制約に服する。
3)懲戒処分としての降格 二重処罰の禁止や相当性の原則など、懲戒処分のルールに従う必要がある。

 

【判決のポイント】

1)なぜ懲戒解雇処分は無効となったのか?
Y社の就業規則では「従業員が会社の秘密情報を社外に漏らしたときは、懲戒処分としてその内容により譴責、減給、出勤停止、降職降格、諭旨退職、懲戒解雇の種類と程度を決定する」と定めている。
本判決では、確かにXが顧客データを(Y社の同意を得ずに)他社にメール送信したことは就業規則所定の懲戒事由に該当するが、①その動機がY社の営業を推進するためであって不正なものではないこと、②Y社に実害が生じていないこと、などの諸事情を総合考慮すれば、Xを懲戒解雇することは酷であり、社会通念上相当ではなく懲戒権の濫用で無効とした。
( ⇒ 確かに規則違反行為をしたが、その内容・動機から懲戒解雇処分は重すぎるということ)

2)なぜ降格・降給処分は無効となったのか?
Y社が降格・降給の原因として、「他社にスパムまがいの宣伝メールを送信したこと」をはじめ、社内調整力や協調性の不足等全部で6つの理由を挙げたが、メール送信以外の事実は全てⅩの責任ではないとし、また、宣伝メールについてもスパムまがいと決め付けるのは行き過ぎだとして、降格・降給処分は裁量権の濫用にあたるとした。

3)なぜ不法行為は成立しなかったのか?
解雇無効により、Ⅹには解雇後の賃金請求権が認められて経済的喪失は補填されるし、顧客データ漏洩はⅩにも非があるから、解雇後の賃金以上にY社に損害賠償を命ずべき特段の事情はなく、不法行為は成立しない。

【SPCの見解】

■一定以上の能力があると見込んで(それなりに高給で)中途採用した社員が、実際はそれほど能力が高くなかったという場合、会社が降格・降給をしたいと考えるのは当然であるが、何の根拠もなく行うと、本件のように裁量権の濫用として無効になってしまうことがあるので注意が必要である。そこで中途採用社員については、まず最初の契約の時点で「能力不足による降給が有り得る」ことを明示しておくことが重要である。(いつまでに、どういった業務を達成して欲しい等の具体性があると、なお良い)なお本件では、採用から9ヶ月の時点で能力不足だと判断してしまっているが、少し短いように思う。できれば1年程度は評価の対象期間とするのが良いだろう。

労働新聞 2013/8/05/2931号より

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