解雇無効を争って不就労していた労働者にも有休付与すべきか?
2016/02/23
八千代交通事件 【最一小判 2013/06/06】
原告:労働者X / 被告:会社Y
【請求内容】
解雇無効の係争期間も出勤日として扱うべきであるとして有給休暇を有することの確認と欠勤控除賃金等を求めた。
【争 点】
「無効な解雇により就労を拒否されていた期間」も出勤日として扱って有休付与「8割出勤」の計算をすべきか?
【判 決】
無効な解雇によって就労を拒否され、就労できなかった期間は、出勤日として扱い、出勤率を算定すべきである。
【概 要】
Ⅹは解雇無効を訴えて地位確認の訴えを提起し、解雇から約2年後に勝利判決が確定した(解雇無効)。Ⅹは、職場復帰後約半年間で合計5日間の有給休暇を請求して就労しなかったが、これに対しY社が「通達によれば、解雇係争中の全労働日は0日であるから、8割以上出勤の要件を満たさない」として、この5日間を欠勤として扱い、賃金を支払わなかった。これを不服としてⅩは有休を有することの確認、未払賃金とその遅延損害金を求めて提訴した。
【確 認】
労働基準法 第39条1項(有給休暇)
使用者は、その雇入れの日から起算して六箇月間継続勤務し全労働日の八割以上出勤した労働者に対して、継続し、又は分割した十労働日の有給休暇を与えなければならない。(つまり、出勤率80%以上の労働者に有休を付与)
【出勤率=出勤した日(分子)÷全労働日(分母)】(※全労働日とは、「1年の歴日数-所定休日」のこと)
但し例外として、実際には出勤していなくても出勤とみなして分母・分子ともにカウントに入れたり、そもそも労働日としてカウントしない(分母・分子ともにカウントに入れない)場合などもある。「8割出勤」要件は、特に出勤率の低い者を除外する趣旨であるから、正当な権利としての不就労日などに対して例外を設けているのである。
【判決のポイント】
【重要】☆★この判例により、厚生労働省が今までの通達を変更しました!★☆
《通達》年次有給休暇算定の基礎となる全労働日の取扱いについて(H25.7.10 基発0710第3号)
http://wwwhourei.mhlw.go.jp/hourei/doc/tsuchi/T130718K0010.pdf
■ 変更点 ■
今までは、1年間休業をしていて労働日がなかった場合は、「労働日が零となる場合は、前年に労働日のあることを前提とする法第39条の解釈上8割以上出勤するという法定要件を満たさないから、年次有給休暇の請求権は発生しない」という通達が出ていた(昭和27年12月2日 基収第5873号)。
※ 本件の様な場合、労働日に参入しなかった。
しかし、これだと、本件のような解雇無効で職場復帰した人の有休が付与されないという(そもそも不当に解雇されたせいで働けなかったのに)不合理な結論となってしまうため、本判決を受けて上記の「」内の文言は削除された。よって、今後は解雇無効により職場復帰した場合、その係争期間中の不就労日は出勤日とみなすことになる。
【参考】全労働日のうち、出勤扱いになる日(実際には就労していないが、分母にも分子にもカウントする日)
① 業務上災害・疾病による療養のために休業した期間(通勤災害による休業日の扱いは自由です)
② 産前産後の休業期間 ③ 育児・介護休業期間 ④ 年次有給休暇取得日
⇒ これらの不就労は、労働者の責めに帰すべき事由によるものではないため、労働者の不利にならないよう配慮。
全労働日に含まれない日(分母にも分子にも含めない日) ①使用者の責めに帰すべき休業期間 ②休日出勤日
【SPCの見解】
■本判決は、最高裁が厚生労働省の通達と真逆の判決を出し、それを受けて通達が変更されたという珍しいケースである。解雇無効により職場復帰した者の有休付与問題というのは、遭遇する可能性の低いトラブルであり、これがそのまま実務上参考になるというものではないが、これを機に、有休付与要件「8割出勤」の算出方法に誤りがないか確認していただきたい。特に、上記【参考】の「出勤扱いになる日」であるにも関わらず、(産休期間等を)不就労日として算出してしまうことのないように注意していただきたい。その他、生理休暇・慶弔休暇などについては、労使で自由に決定することができるため、就業規則であらかじめ定めておくことが望ましい。
労働新聞 2013/8/12/2932号より