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69歳嘱託運転手が接触事故、すぐに申告せずクビ

      2021/03/03

日の丸交通足立事件【東京地判 令和2年5月22日】

Xは、Y社と昭和57年に期間の定めのない雇用契約を締結し、平成29年4月18日に67歳で定年退職した。

定年退職後は、雇用期間を平成29年4月19日から平成30年4月18日までの1年間の嘱託雇用契約を締結した。平成30年4月頃、嘱託雇用契約を同様の内容で更新された。なお、雇用契約書等の書面はない。

Y社は主にタクシー運転者およびタクシー営業車の管理・運行を目的とする会社である。

平成30年11月頃、Xは乗務中にホテル付近で自転車と接触し、自転車の運転手は走り去った。ホテルで乗客を降車させた後、警察やY社に報告することなく、引き続きの業務を行った。

 

Y社はこの接触の不申告について、社内での周知は行わなかった。また、警察においても交通違反として扱われず、違反点数として加算されていない。

 

平成31年3月16日、Y社はXに対して、契約期間満了通知書と題する書面を交付した。契約を更新しない理由として、Y社は「乗務中に報告義務違反(道路交通法72条1項違反)と歩道手前での一時停止違反(道路交通法72条2項違反)に相当する行為のため。」とした。

 

XはY社に、再契約を検討してほしい旨述べたが、Y社は拒否した。

【判決のポイント】

Xについては、昭和57年にY社と雇用契約を締結してから定年退職するまでの30年間については無事故であるとして、関東運輸局長から表彰も受けており、優秀な運転手であったと評価されている。

また、Y社においても70歳以上の運転手も約16%いることなど、Xにおいても契約が更新されることへの期待が高いものであった。

 

Y社の主張する接触事故については、自転車の運転手が走り去り、警察においても道路交通法違反として扱われていないことを踏まえれば、悪質性の高いものとは言えない。

Xが直ちに警察に報告しなかったことも、一定程度理解できるとされた。

 

Xが、Y社の主張する理由に等によって雇止めすることは、客観的に合理的な理由があり、社会通念上相当であるとは認められない。Y社のXに対する雇止めは重過ぎる。

【SPCの見解】

継続雇用制度における継続雇用拒否については、『心身の故障のため業務に堪えられないと認められること、勤務状況が著しく不 良で引き続き従業員としての職責を果たし得ないこと等就業規則に定める解雇事 由又は退職事由(年齢に係るものを除く。以下同じ。)に該当する場合には、継続 雇用しないことができる。』とされています。(高年齢者雇用確保措置の実施及び運用に関する指針 平成 24 年 11 月 9 日厚生労働省告示第 560 号)

 

本件のよう警察が違反として扱っておらず、事故について隠すことなく事故申告していること。また、Xは平成31年4月頃にY社に対して、「雇止めに納得しておらず、再契約を検討してほしい。」と述べており、その時点で会社としては再検討することなどの対応が必要であったと思われる。

 

本件を事実だけ確認した場合、接触事故や交通違反を起こして、報告もせず雇止めされたとだけの事実になってしまう可能性もあります。

 

裁判では、定年前の運輸局長から表彰され、本件以外の事には何も問題が無かったこと。警察においても交通違反として処理されていないこと。他の運転手についても70歳以上の者が一定程度いること。

以上のような様々な事情が確認されます。

 

本件についても、雇止めではなく、別の懲戒事由に当てはめて処分するなど別の対応が必要であったと思われます。

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