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元請は一人親方の労災事故にも損害賠償責任があるのか?

      2016/02/23

H工務店事件 【大阪高裁 2008/07/30】
原告:一人親方Ⅹ  /  被告:元請Y

【請求内容】
一人親方であるⅩが転落事故で負傷したのは元請Yの安全配慮義務違反によるものとして損害賠償を求めた。

【争  点】
元請は、個人事業主である(労働者ではない)一人親方に対しても安全配慮義務を負うのか?

【判  決】
ⅩY間には「実質的な使用従属関係」があったとして、安全配慮義務違反による損害賠償を認めた(過失相殺8割)

【概  要】
一人親方Ⅹは、元請Yから依頼を受けて業務に従事していた。ある日Ⅹは工事中に高所から転落し、頚椎骨折等のケガを負った。現場には足場が組まれておらず、転落防止ネット等は設置されていなかったが、Ⅹは次から仕事がもらえないと考えて、当時これに不満は述べなかった。しかし事故後Ⅹは、Yには安全配慮義務違反の債務不履行があったとして損害賠償を求めた。第一審では、Ⅹは個人事業主であるという理由で請求を棄却されている。

【確  認】
【安全配慮義務】従来は判例上の概念であったが、労働契約法5条において「使用者は、労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものとする」と明文化された。
条文上は「使用者」の義務とされているが、以下のように、使用者以外にも認められるという判例もある。
「安全配慮義務は、ある法律関係に基づいて特別な社会的接触の関係に入った当事者間において、当該法律関係の付随的義務として当事者の一方又は双方が相手方に対して信義則上負う義務として一般的に認められるもの」として、必ずしも雇用契約に限定されるものではないとしている。【自衛隊車両整備工場事件(最三小判昭50.2.25)】
その他、元請と請負会社の労働者間での安全配慮義務が認められた判例もある。【三菱重工業神戸造船所事件】

 

【判決のポイント】

1)元請Yは一人親方Ⅹに対しても安全配慮義務があったのか?
Ⅹ(一人親方)とY(元請)間の契約関係は、典型的な雇用契約関係とはいえないにしても、請負(下請)契約関係の色彩の強い契約関係であり、その契約の類型如何に関わらず、両者間には「実質的な使用従属関係があったというべき」であるから、YはⅩに対し、使用者と同様の安全配慮義務を負っていたと解するのが相当である。
2)元請Yに安全配慮義務違反の事実があったのか?
①工事箇所は地面から3.5mの高所であり、元請Yは、高所作業従事者が墜落する危険があることも予見できたにもかかわらず、現場に足場や転落防止ネット等は設置されておらず、Ⅹは命綱もつけていなかった。
②元請Yは、安全配慮義務の履行として、外回りの足場を設置し、これが物理的に困難な場合には代わりに防網を張り、安全帯を使用させるなど、墜落による危険を防止するための措置を講ずべき義務があった。
(労働安全衛生規則 第518条・第519条)
3)なぜ損害賠償額は8割の過失相殺がされたのか?
①Ⅹは30年以上の経験を有する大工であるにもかかわらず、両手打ちのカヤを用いたり、地下足袋ではなく運動靴を履いていたことは不適切であり、Ⅹの道具選択と技量に誤りがあったといえること。
②Ⅹは現場に足場等が設置されていないことを明らかに認識しつつ、元請Yに何らの措置も求めなかったこと。
⇒ 以上のⅩの過失を考慮したことにより、実際の賠償額は8割分過失相殺により減額された。

【SPCの見解】

■原則一人親方は、自身で労災に加入し、元請の労災によって守られるということはない。よって実際に事故があった際には、元請に対しては何らの請求も出来ないと考えがちだが、もし、現場に安全配慮義務違反があった場合は、一人親方であっても元請に対して債務不履行に基づく損害賠償を請求できる。本件でも、高さが2m以上の高所作業の際には、作業床・手摺等を設置する義務があるにもかかわらず、それが行われていなかったという明らかな違反があったため、元請の責任が認められたのである。しかし逆にいえば、元請がしっかり安全に関する配慮を行っていれば、責任を負う必要はなかったのである。元請には、日頃の安全配慮がいかに重要であるかを再認識してほしい。

労働新聞 2009/9/14/2744号より

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