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残業代込み基本給の有効性

      2016/02/23

テックジャパン事件 【最一小判 2012/03/08】
原告:派遣労働者  /  被告:会社(派遣業)

【請求内容】
月160時間を基準に上下20時間の範囲内は月給を定額払いとする労働者が割増賃金の支払いを求めた訴訟の上告審。

【争  点】
一定範囲の残業代を含む基本給設定(幅のある給与の定め)は認められるか?

【判  決】
通常部分と時間外割増賃金部分とが判別できず、また原告が割増賃金を放棄したとは言えないため、原審差戻し。

【概  要】
派遣社員である原告は「月の総労働時間が180時間を超えた場合には1時間あたり2,560円を支払うが、140時間に満たない場合には1時間あたり2,920円を控除する」という雇用契約であったが、これを不服として通常の計算による割増賃金の支払いを求めた。原審は「このような契約もそれなりの合理性があり、本人も受け入れていた(月間180時間以内の割増賃金は自由意思で放棄したと認定)」として契約有効としたため、原告はさらに最高裁に上告した。

【確  認】
【固定時間外労働割増手当が有効される要件】
1)割増賃金相当部分とそれ以外の賃金部分とを明確に区別することができること
2)割増賃金相当部分と通常時間に対応する賃金によって計算した割増賃金とを比較対照できるような定め方がなされていること(例:固定割増賃金2万円は、通常計算による割増単価で時間外労働10時間分にあたる等)
3)実際に規定の「超過時間」をさらに超過した場合、超過部分の割増賃金が支給されていること
(例:時間外労働10時間で固定割増賃金2万円なら、10時間を越える時間外労働については別途支払いが必要)

 

【判決のポイント】

<本件の原告(派遣労働者)の雇用契約>
【月の総労働時間が140~180時間の間の場合】=基本給41万円を支給する
⇒ ※180時間を越えた場合は1時間あたり2,560円支払う。
⇒ ※140時間に満たない場合は1時間あたり2,920円控除する。

労働基準法37条により、通常は「1日8時間・週40時間」を越えた分については割増賃金の支払いが必要であるとされているため、通常の計算方法によると原告には月180時間以内労働であっても時間外労働が発生していたといえる。しかし、原告はこのようなことが発生することも承知の上で、今回のような幅のある給与の定めに合意しているのであるから、原審では「原告は月間180時間以内の割増賃金は自由意思で放棄した」と認定した。

しかし、最高裁で「原審差し戻し」の判決となった理由は以下の通り。
①固定時間外労働割増手当の要件を満たしていないこと
雇用契約では基本給が月額41万円とされているのみで、通常の労働時間部分と時間外割増部分とを区別することはできない。(上記要件1に当てはまらない)
②原告が月間180時間以内の割増賃金は自由意思で放棄したとはいえないこと
本件雇用契約の締結時に、労働者が「時間外労働が相当大きく変動すること」をあらかじめ予測するのは不可能であったため

【SPCの見解】

■固定残業代で問題となるのは、主に「その固定残業代が何時間分に当たるのかをひとりひとりきちんと管理できているか」「固定残業代で支払われているとされている時間以上の時間外労働について割増賃金が支払われているか」の2点である。今回の場合はかなり珍しい雇用契約であったが、その可否についても通常の固定残業代の要件に当てはまるか否かで判断されているため、結局どのような賃金体系をとっても、法定の時間外労働分の割増賃金がきちんと支払われていること、そしてそれが客観的に見て明らかであることが求められる。さらに裁判官は「給与明細上も時間外労働時間と残業手当の額を明示すべき」としており、今後実務上の対応が求められるだろう。

労働新聞 2012/8/13/2884号より

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