運行管理業務で中途採用、倉庫部門への配転は?
安藤運輸事件【名古屋高判 令和3年1月20日】
【事案の概要】
被控訴人(従業員)は、運行管理者の資格を保有し、控訴人(会社)に運行管理業務・配車業務を担当する者として雇用され、入社後に当該業務に従事していたが、乗務員からのクレームや取引先からの車回入力の遅れや輸送事故の頻発につき注意を受けることがあり、入社から1年7ヶ月後に倉庫部門への配転命令が下された。
本件は、従業員は配転は、職種限定の合意に反し、また、業務上の必要性がなく行われたものであり権利濫用に当たり無効と主張し、配転先の倉庫部門において勤務する雇用契約上の義務を負わないことの確認を求めた事案である。
一審の名古屋地裁(令和元年11月12日)では、職種限定の合意の成立は認められないとしつつ、配転については運行管理者の資格を活かし、運行管理業務や配車業務に従事することの期待への配慮が求められるとし、従業員の請求を認容したため、会社は提訴した。
【判決のポイント】
■職種限定の合意が成立したか:否定
職種を限定する裏付ける雇用契約書は存在しないこと、求人票にも運行管理業務以外の業務に従事することがないという記載もなく、そして、就業規則には職種の変更があり得ると規程されており、従業員ー会社間で職種限定の合意がなされたとは認められない。
しかし、会社は面接時に採用担当者から「夜間点呼業務に異動させることはない。」と説明しており、採用後すぐに運行管理者に選任し、3ヵ月弱で統括運行管理者に選任している。これらの事情を考慮すれば、運行管理者の資格を活かし、運行管理業務や配車業務に従事することへの期待は合理的であり、法的保護に値する。
■配転命令は権利の濫用に当たるか:肯定
裁判所は、本件配転に不当な動機、目的はなかったとしつつも、業務上の必要性がなく、仮にあったとしても高いものでなく、従業員に通常甘受すべき程度を著しく超える不利益を負わせたものとして、権利の濫用に当たり無効とした。
【SPCの見解】
倉庫部門への配転にあたり、休日出勤手当(毎月1、2万円)は受けることができなかったものの、賃金自体の引き下げはなかった。また、勤務地にも大きな変更がないため、経済上・生活上の不利益は生じていないと判示された。
他方で、倉庫管理での業務内容が運行管理者の資格を持ち、その経験を活かすという従業員側の期待に大きく反するものであったとし、配転は無効とされた。
判決内容自体は、東亜ペイント事件(最二小判 昭和61年7月14日)の判断枠組みに沿った内容であり、職種・勤務地を限定する合意が存在するか、当該配転命令が権利濫用に当たるかという点から判断される。
権利濫用に当たるかについては、①配転命令の業務上の必要性、②不当な動機・目的の有無、③通常甘受すべき程度を超える不利益の有無から判断される。
本件については、試用期間中に統括運行管理者に選任されたりと運行管理者の資格を活かす運行管理業務へ従事することへの期待が大きかった半面、配転が通常甘受すべき程度を超える不利益が生じたと判断されました。
会社として、まずは業務上のミスが改善されるよう根気強く指導をしつつ、同時に配転を行った際に、その配転命令が業務上の必要性に基づくことを証明できる証拠を積み重ねていくとことも同時に求められます。