ストーカー行為の諭旨免職重すぎたとした一審は
2022/03/04
PwCあらた有限責任監査法人事件【東京高判 令和3年7月14日】
【事案の概要】
一審原告X(従業員)は、一審被告Y(会社)と期間の定めのない雇用契約を締結していたが、平成30年5月に職場の女性に対するハラスメント等(ストーカー行為)により諭旨免職処分を受けた。
しかし、Xは退職に応じず、7月に降格処分、平成31年2月に職務遂行能力不足を理由とする普通解雇された。
Xは、(1)諭旨免職処分の無効、(2)降格処分の無効確認、(3)普通解雇の無効であること、(4)賃金および賞与の支払い等を請求した。
一審(東京地裁 令和2年7月2日)は、(1)諭旨免職処分の無効は認容、(2)降格処分は有効、(3)普通解雇は無効、(4)賃金および賞与の支払いは一部を認容したため、XとYともに控訴した。
【判決のポイント】
二審(東京高判 令和3年7月14日)は、
■諭旨免職処分の有効性:有効と判断
Xによるストーカー行為は、被害女性が退社後に駅まで付きまとうなど複数回にわたり、相当程度において行っていたものと推認でき、受けた精神的苦痛は看過できるものではない。
また、XはYによる聴取の際に「女性はPTSDになったりしておらず、普通に出勤しているから問題ない。」と発言しており、反省したとは言い難い状況であった。
以上より、ストーカー行為の程度、女性の精神的苦痛の程度、Xの反省状況を考慮し、諭旨免職処分は懲戒権を濫用したと言えず有効である。
一審で、諭旨免職処分が無効とされた理由として、ストーカー行為について客観的な証拠がなく、無効とした。諭旨免職処分の無効が、普通解雇の無効とする判断につながったと考えられる。
その点、控訴審では、ある日退社した被害女性がXが普段女性が利用している駅に向かい、周囲を探していたことを夫に連絡し、その様子を動画にて撮影した。その後警察署に相談を行っていたことが判断が覆ったことに影響したのではないか。
■普通解雇の有効性:有効と判断
Xは主に他部署から依頼を受けてクライアント業務に関わるYにおいてプロフェッショナル職に就いていたが、基本的な業務の遂行ができていなかった。
その一方で、Xは誰にでも簡単にできる補助業務を担当することはないと意思表示を示していた。
Xは諭旨免職処分を真摯に受け止めておらず、反省もしていない状況にあり、Yにおける基本業務に関しても否定的な姿勢をみせる等、XY間の信頼関係を破壊するものであった。これにより普通解雇(就業規則)の「やむを得ない事由があるとき」に該当し、有効と認めるのが相当である。
【SPCの見解】
ハラスメントに対しては、セクハラやパワハラを中心に法改正により防止対策が事業主側に義務化され、社会の関心も高くなりました。
ハラスメントを起こさせない職場環境を構築していくことが基本となるが、万が一起こってしまった場合や予兆がある場合には、相談できる窓口の設置し迅速に対応することが求められます。
相談内容によっては当事者や第三者のヒアリングを行い、正確な事実確認に努め、ハラスメントの事実があれば会社としての対処方針(懲戒処分等)を決定していく流れになります。
その際に、相談者(いわゆる被害者)に相談したことによる二次被害や逆恨みは絶対に防止し、会社として安全安心な職場環境を構築していくことが大切になります。