書類提出に非協力的で協調性を欠くとけん責は?
テトラ・コミュニケーションズ事件【東京高判 令和3年9月7日】
【事案の概要】
けん責処分を行う際に弁明の機会を与えられず、違法無効な懲戒処分を受けたとして、民法709条または会社法350条に基づき、損害賠償を求めた。
けん責処分の理由は、企業年金の確定拠出年金への移行に際し必要書類を求めたところ、脅迫な言動を行ったことだった。
【判決のポイント】
懲戒処分を行う際には、就業規則に手続き的な規定がなくとも基本的には当該該当者に弁明の機会を与えるべきであり、手続き的相当性を欠く懲戒処分は社会通念上相当なものとはいえず、懲戒権を濫用したものとして無効となる。
懲戒処分の理由となった脅迫的な言動(具体的には書類を求めた人物に対して、メールで「この件で、私が不利益を被ることがありましたら、訴訟しますことをお伝えします。」と送ったこと)は動かしがたい事実であるが、メールを送った経緯や理由など含めて確認する必要があり、送信について言い分を聞いたうえで懲戒処分を判断すべきであったといえる。
したがって、本件懲戒処分は手続き相当性を欠くものであり、無効である。(精神的慰謝料10万円および弁護士費用1万円を認容)
【SPCの見解】
弊社で作成する就業規則は、懲戒処分を行う際には弁明の機会を設ける旨を規定しているが、本件のように仮に規定が無くとも、手続き相当性を欠くとの判断で無効と認められた裁判である。
同時に、けん責処分という比較的軽い懲戒処分であったとしても、しっかりと弁明の機会を設けることの重要性を再認識させられた裁判でもあった。
会社としては、特に重大な犯罪行為を行った従業員については、(おそらくニュース等で会社名が出ることへのリスクから)早急に懲戒処分を下すことがあるが、接見を通じて弁明の機会を設けないことにより懲戒処分を無効と判断される可能性もあるため、より一層慎重な対応が求められる。
今回、当該従業員が主張した民法709条と会社法350条は以下のとおりである。
■民法第709条とは(不法行為による損害賠償)
故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。
不法行為における故意・過失についての立証責任を負うのは被害者(請求する側)となっている。
参考:民法第415条(債務不履行による損害賠償)
債務不履行の場合、債務者(請求される側)が帰責事由について立証責任を負う。
■会社法第350条とは
会社は、代表取締役がその職務を行うについて第三者に加えた損害を賠償する責任を負うものとされている。
代表取締役の行為が不法行為(民法709条)に当たることが必要であり、代表取締役に故意または過失があることが要件となる。