ノルマ未達成の罰としてのコスプレ強要はパワハラなのか?
2016/02/23
K化粧品販売事件 【大分地判 2013/02/02】
原告:労働者Ⅹ / 被告:会社Y
【請求内容】
ノルマ未達成の罰として研修会でコスプレさせられた事による精神的苦痛について損害賠償として319万円請求
【争 点】
上司が女性販売員に研修会にてコスプレをさせた事や、それを後日スライド投影した事は不法行為に該当するか?
【判 決】
例えコスチューム着用が任意でも拒否することが非常に困難で、正当な職務行為とはいえず、不法行為に該当する。
【概 要】
女性販売員Ⅹが販売目標数に達しなかったことへの罰として、上司らは社内の研修会にて、Ⅹの意に反して(ウサギの耳の形をしたカチューシャをつけた易者の)コスチュームを着用するように強要し、さらに別の研修会にて、その様子をスライド投影した。Ⅹの提訴に対し上司らは「本件はレクリエーションの一環の罰ゲームで、参加は任意であり、Ⅹは着替えを拒否できた」と反論した。Ⅹはコスチューム着用を明示的には拒否していなかった。
【確 認】
【パワーハラスメント(パワハラ)】
同じ職場で働く者に対して、職務上の地位や人間関係などの職場内の優位性を背景に、業務の適正な範囲を超えて、精神的・身体的苦痛を与える又は職場環境を悪化させる行為(厚生労働省の「職場のいじめ・嫌がらせ問題に関する円卓会議」が平成24年3月に発表した定義)
<パワハラに関する参考HP>
厚生労働省「あかるい職場応援団」 http://www.no-pawahara.mhlw.go.jp/
「職場のパワーハラスメント対策ハンドブック」ダウンロード
http://www.no-pawahara.mhlw.go.jp/download
【判決のポイント】
■上司ら(A,B,Cの3名)の行為が不法行為となった理由とは?
【問題となった行為】
①販売目標数に達しなかったⅩに対し、頭部にウサギの耳のカチューシャをつけた易者のコスチュームを着用して社内の研修会に参加するように強要したこと。
②後日、別の研修会において、コスチュームを着用したⅩの姿を含む上記研修会のスライド投影をしたこと。
【不法行為となった理由】
①Xの本件コスチューム着用が予定されていながら、それについてのXの意思を確認することもせず、たとえ任意であったことを前提としてもXがその場でこれを拒否することは非常に困難であったこと。
②上司らは、本件はレクリエーションや盛り上げ策を目的としており、X個人を人格的に攻撃するものではないと反論したが、仮に、X個人を攻撃するものではなかったとしても、上記事情の下では、それによってXに対する当該行為の手段の相当性が認められるものではなく、違法性が覆されるものではなく、また、同被告らの過失が否定されるものでもない。
⇒ Ⅹがコスチュームの着用を明示的に拒否していないことなどを考慮しても、目的が正当なものであったとしても、もはや社会通念上正当な職務行為であるとはいえず、Xに心理的負荷を過度に負わせる行為であるといわざるを得ず、違法性を有し、不法行為に該当する。
※ 判決では、Ⅹの請求した損害賠償額319万円に対し、22万円(弁護士費用も含む)しか認められなかった。
【SPCの見解】
■「いじめ・嫌がらせ」に関する労働局への相談は年々増加しており、職場でのいじめ等により精神障害を発症し、労災を申請するケースも増加している。パワハラについては「業務上必要な指導」と「過度な精神的攻撃」の境界線があいまいであり判断が難しいところであるが、本件のように、ノルマ未達成に対する罰としては適切とはいえない手段で、また人によっては、コスプレに対して過度に羞恥心を感じる可能性も想定できるにもかかわらず(立場上断りにくい)Ⅹに強要したことはやはり問題であったといえる。パワハラを過剰に意識して萎縮する必要はないが、少なくとも指導する場合やペナルティを与える場合は、適切な手段・程度で行うよう心がけるべきである。
労働新聞 2013/10/28/2942号より