退職後発覚した非違行為、訴訟で主張できる?
2022/05/26
広島三陽学園事件【広島高判 令和2年2月26日】
【事案の概要】
雇止めされた教員が地位確認を求めた事案の控訴審。学園は、訴訟において雇止め後に発覚した非違行為を追加主張した。
控訴人(教員)は被控訴人(学園)との間で平成23年4月1日を始期とする期間1年の労働契約が3回にわたり更新されたものの、平成27年4月には更新されなかったことについて、地位確認を求めるとともに、労働契約に基づく賃金請求を求めた事案。
【判決のポイント】
労働基準法22条1項は、労働者が、退職の場合において、使用者に対し、退職の事由(退職の事由が解雇の場合にあっては、その理由を含む)について証明書を請求することができることを定めており、また、これを受けて平成15年厚労省告示2条(平成24年厚生労働省告示551号により一部改正)は、3回以上更新し、又は雇入れの日から起算して1年を超えて継続勤務している者に係る有期労働契約を使用者が更新しないこととしようとする場合において、使用者は、労働者が更新しないこととする理由について証明書を請求したときは、遅滞なくこれを交付しなければならないと定めている。
解雇理由証明書の請求について規定したのは、解雇が労働者に大きな不利益を与えるものであり、解雇理由を明示することによって会社側の不当解雇を抑制するとともに、労働者に当該解雇の効力を争うか否かの判断の便宜を与える趣旨に出たものと解されるから、解雇理由証明書に記載のなかった事由を使用者において解雇理由として主張することは、原則として許されないというべきである。
本件をみてみると、平成27年3月末の更新期においては、控訴人の現金着服および領収書の偽造を本件雇止めの合理的理由を基礎づける事情として考慮できない。しかし、平成28年3月末時点では前期事実が発覚しており、被控訴人が控訴人の労働契約を更新しないことに客観的に合理的な理由があり社会通念上相当と認められる。よって、平成27年3月末の雇止めは無効であるが、平成28年3月末の雇止めは有効とし、平成27年度分の賃金請求を認める。
【SPCの見解】
本件は雇止めに際して、労働者に交付した退職証明書に記載のない事実を訴訟において追加主張できるかどうか争われた裁判であるが、追加主張できる説とできない説があり、本件は後者を採用した初めての裁判例と言える。
解雇や更新を繰り返した者の雇止めをする際には、合理的な理由や社会通念上相当かどうかが問題となることがあり、使用者としてはまずはその事をしっかりと説明できるかの確認をしたい。
同時に、解雇理由証明書については、どういった理由での解雇であったかの証明になるため、記載漏れがないように注意する必要がある。少なくとも本判例では、記載のなかったことに関しての追加主張はできないとの判断であったため、後出しのようなことをしなくても良いように正確な事実確認にも努めることが重要なる。また、早急な発行は控え、2週間程度の期間は確保したい。
記載内容含めて労働者から証明書の請求があった際は、一度弊社にもご相談ください。