コロナで収入減少、タクシー会社解散し、クビに
2022/06/20
龍生自動車事件【東京地裁 令和3年10月28日】
【事案の概要】
新型コロナウイルスの影響で事業継続が不可能となったタクシー会社が全従業員に解雇を通告したうえ解散した。解雇された従業員が本件解雇は無効であると主張して労働契約上の地位確認、および本件解雇による主張、言動等は不法行為にあたるとして損害賠償請求を求めた事案。
本件の争点は、会社の解散・清算を前提とした解雇に整理解雇の法理の適用があるかである。整理解雇の適用がありとすると、4要素(人員削減の必要性、解雇回避努力義務履行の有無、被解雇者選定の相当性、手続きの妥当性)の適用の可否の問題となる。
【判決のポイント】
(1)会社は解散に先立ち、解雇予告期間中に事業譲渡が実現しない限り、事業を廃止し、本件解雇は解散に伴うものと認められる。そして、会社解散による解雇の場合は、いわゆる整理解雇の法理は適用されないものとする。
(2)本件解雇は、新型コロナウイルスによる営業収入の減少にという予見困難な事態を契機としてなされたものであり、会社が従業員に事前に有意な情報提供を行うことは困難であった。また、解雇予告後も団交を行い、情報提供をしつつ、特別退職慰労金を支給しているなど一定の配慮も行っている。手続き的配慮を欠いたと言うことまではできない。
(3)本件解雇は新型コロナウイルスによる営業収入の減少により行われたものであり、労働組合を排除するといった不当な目的があった認とめられず、そのような主張自体が仮定的なものにとどまっている。
以上(1)~(3)より、本件解雇は有効であり、会社や代理人の主張、言動等も不法行為を構成するものとはいえない。
【SPCの見解】
真の会社解散による解雇の場合は、整理解雇の4要素が全て適用されることはないと判示されました。しかし、4要素のうちの2つ『解雇回避努力義務履行の有無』と『手続きの妥当性』が問題となっており、本件は会社が5期連続で売り上げ減少と赤字経営が続いており、これ以上の事業継続は不能決断して解散を行っていること。団体においてその経営情報を提供し、低額ではあるが退職慰労金を支給しているなど、『解雇回避努力義務履行の有無』と『手続きの妥当性』は尽くされたと判断されたものです。簡単な言葉で言い換えれば、解雇時にどれだけ丁寧に解雇理由の説明ができるか、どれだけ手続き的配慮を持って行えるかがポイントになります。
また、会社が存続している中で、新型コロナウイルス禍で雇用調整助成金を使用しないままの整理解雇は、『解雇回避努力義務履行の有無』の関係で容易に認められない傾向にあります。
しかし、会社解散による解雇の場合は、雇用調整助成金を使用しなくても『解雇回避努力義務履行の有無』を怠ったということにはならないと判示されました。雇用調整助成金が必ずしも必須ではないことに留意しておく必要があります。
会社としては整理解雇や会社解散による解雇に限らず、解雇する場合は可能な限り個別の合意退職に向けて努力を尽くしつつ、手続き的配慮(再就職の手配、閉鎖時期や解雇の時期、退職慰慰労金の有無)が求められます。