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定期健康診断の病院選んで受診すると自腹に?

   

セヴァ福祉会事件【京都地裁 令和4年5月11日】

【事案の概要】

被告Yの経営する保育園で、保育士として勤務していた従業員Xが①時間外・深夜割増賃金の差額、②月給固定給の差額、③希望する医師によって行った定期健康診断の費用の負担、④恒常的に月80時間を超える時間外労働に対する安全配慮義務違反の損害賠償、⑤労基法114条に基づく付加金の支払いを求めて提訴した事案。

争点は多岐に渡るが、「労働時間の認定」と「健康診断の費用負担」について紹介します。

【判決のポイント】

(1)労働時間の認定について

Yの経営する保育所では夜間勤務も行っており、保育所における保育士の絶対数が足りておらず、Xを含むほとんどの保育士が毎日残業をする前提でシフトを組まれていたこと。Xは総合責任主幹として他の保育士より多忙であったことからすれば、Xの残業時間が他の保育士より多かったとしても何ら不自然ではない(Yは、Xが最終退園者となる場合のタイムカードの打刻時間が、指示した業務量に比して不自然であり、意図的に打刻時間を遅らせていると主張するが、その主張を具体的に立証できてない)。

(2)健康診断の費用負担について

安衛法66条1項により、事業者は労働者に医師のよる定期健康診断を行わなければならないとされており、その費用についても当然の事業者が負担すべきとされている(昭和47年9月18日 基発602号)。

また、安衛法66条5項により、労働者は事業者が指定した医師による健康診断を希望しない場合は、他の医師による健康診断を受診することができるとされている。

したがって、Xが負担した健康診断の費用は2~3万円であり、必要かつ合理的な範囲内のものである。その費用は本来Yが負担すべきとされており、支払いを免れた分の利得がYに発生しているので、Yは不当利得としてXに返還する法的責任を負う(民法703条)。

【SPCの見解】

本件の労働時間については、タイムカードの打刻時間をXの業務量や他の保育士の労働時間の集計方法を勘案して、労働時間として認定されています。多くの会社でもタイムカードの打刻を労働時間や残業時間の把握・集計に用いているかと思います。始業前・終業後に正しく打刻を行えていれば問題ありませんが、例えば始業開始が8時にもかかわらず、タイムカードの打刻時間が始業時刻と大きく違っている場合(渋滞に巻き込まれたくないため、早めに会社に着き、労働はしていないが7時に打刻する等)は後々労働者から未払い分として請求されるリスクにもなります。

会社としては、タイムカードを労働時間や残業時間の把握・集計に用いている場合には、実際に労働を開始・終了した時点で打刻することを徹底していく必要があります。

 

健康診断の費用については、通達では事業者に負担すべきとされていますが、他の医師の健康診断を受診した費用まで負担すべきとする点には疑義が生じるますが、本件では民法703条の不当利得返還義務を絡めて返還を命じています。この点については、安衛則44条1項にある法定項目部分の費用の返還に留めておくなど検討しても良いかと思います。

いずれにせよ、事業者としては労働者の健康診断の結果を知りたい以上、その費用を支払っておけば、結果を提出させることも言い易くなるため、必要かつ合理的な受診項目であれば支払うのが無難かと思います。

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