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従業員間の暴力事件について最終的な損害賠償責任者は誰か?

      2016/02/23

損害賠償求償(X社)事件 【名古屋地 2012/12/20】
原告:労働者A  /  被告:(X社)

【請求内容】
従業員間暴行事件の被害者に会社が支払った損害賠償全額を加害者に求償するため承継執行文の付与の訴えを提起。

【争  点】
従業員間の暴行事件について使用者責任に基づき会社が賠償した全額を、加害者に求償できるか?

【判  決】
本件は加害者の故意であり、傷害行為を会社があらかじめ予見することは不可能であること等から全額求償可能。

【概  要】
X社に勤務するAは同僚のBの態度に激高して暴行し、傷害罪で略式命令を受けた。被害者Bはその後、AとX社に不法行為および使用者責任に基づく損害賠償請求訴訟を提起し、「X社・Aは連帯してBに131万円余を支払え」との判決が出た。X社はBに全額を支払ったが、Bに代位してAに強制執行すべく、Aに対し「承継執行文の付与の訴え」を提起した。Aは、X社が適切な管理を怠ったことも原因の一端であるとして請求異議の訴えを提起した。

【確  認】
【使用者責任】民法第715条
1.ある事業のために他人を使用する者は、被用者がその事業の執行について第三者に加えた損害を賠償する責任を負う。ただし、使用者が被用者の選任及びその事業の監督について相当の注意をしたとき、又は相当の注意をしても損害が生ずべきであったときは、この限りでない。
2.使用者に代わって事業を監督する者も、前項の責任を負う。
3.前二項の規定は、使用者又は監督者から被用者に対する求償権の行使を妨げない。
【任意代位】民法第499条
債務者のために弁済をした者は、その弁済と同時に債権者の承諾を得て、債権者に代位することができる。

 

【判決のポイント】

1)従業員間の暴行事件について、会社も被害者に対して損害賠償責任を負うのか?
民法715条により、会社は労働者が「事業の執行につき」与えた損害を賠償する責任を負う。一応免責規定があるものの、裁判ではこの免責事由を厳格に適用することから、事実上無過失責任に近く、会社がこの責任を免れることはほとんどない。

2)会社は、被害者に支払った損害賠償額の全額を加害者に求償出来るのか?
加害者Aは、X社がAに損害賠償額の全額を求償することは、信義則上許されないとして以下の通り反論した。
① X社は、Bの態度が不真面目であったにもかかわらず放置し、あえてAとBとを一緒に仕事させた結果、傷害事件を誘発させた。
② X社の担当者がAに「Bに会わない方がよい」などと指示し、Aに謝罪させず早期の示談解決の機会を奪った。
⇒ しかし、上記の主張は、全て認められないと判断された。

通常、業務中の過誤(交通事故など)による場合は、労使の損害の公平な分担の観点から、会社の求償権の範囲は、全額ではなく一部にとどめるべきとされるのが一般的だが、暴力行為やセクハラ等の故意のよる加害行為は、最終的に責任を負うべきなのは行為者であり、全額求償が認められる場合がある。本件も、暴行事件は偶発的なもので、X社がこの事件の発生を予見するこは不可能であったことや、本件がAの故意による不法行為であることを勘案し、Aに対するX社の求償権の範囲を制限する必要はないと判断された。(つまり全額Aに求償することができる)

【SPCの見解】

■従業員間の暴力事件などは、会社があらかじめ予想することが難しいにもかかわらず、なぜ会社も加害者と連帯して使用者責任を負わなけらばならないのか?それは「報償責任の原理」(使用者は労働者を使用することによって利益を得ている以上、それによって生じた損害についても責任を負担すべきという考え方)による。しかし傷害事件などは完全に故意であり、通常の業務から発生するリスクであるとは言い難いため、そんなものまで会社が最終的な責任を負う必要はない。そのために715条3項は存在している(但し交通事故等の過失行為については、会社も一定の最終責任を負う)。最終的な責任は加害者にあるとしつつも、会社にも連帯責任を負わせることで被害者を保護している。

労働新聞 2013/11/25/2946号より

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