「他業務なら復職可能」の場合に必要な配転検討の範囲とは?
2016/02/23
伊藤忠商事事件事件 【東京地判 2013/02/31】
原告:労働者X / 被告:会社
【請求内容】
従前の業務は無理でも配転可能な他の業務を検討すべきとして、休職期間満了による退職の無効と地位確認を請求。
【争 点】
Xは休職期間満了日までに「総合職として」雇用契約の債務の本旨に従った労務提供ができる程度に回復したか?
【判 決】
回復の証明責任は労働者にあるが、その立証が尽くされておらず、治癒・寛解には至っていないとして請求を棄却。
【概 要】
Xは入社後約9年経過した頃に「双極性障害(躁状態とうつ状態を繰り返す精神疾患)」と診断され、精勤休暇を取得後欠勤していたが、病状は一進一退を繰り返していたため、会社はXに休職を命じた。その後Xが休職期間中に復職を申し入れたため、トライアル出社を開始したが、会社は健康管理委員会にて審議した結果「これ以上のトライアルの継続は困難で、再発の可能性大」として復職不可と判断し、休職期間が満了した日をもってXを退職とした。
【確 認】
特に職種限定されていない者(ゼネラリスト)ならば、従前の業務は遂行できなくても、遂行可能性のある他業務への配転を検討しなければならないが、職種限定者(スペシャリスト)であれば、従前の業務の遂行可能性のみ検討すればよい(他の職種の配転可能性の検討までは求められない)とされている。 またゼネラリストであっても、私傷病が「身体的疾患」か「精神的疾患」かによっても、求められる対応レベルが異なる場合がある。身体的疾患であれば、治癒後すぐに従前と同じレベルを求めるのは酷な場合が多いため、精神的疾患と比較すると、より強く、他業務への配転についての配慮が求められる可能性があるため注意を要する
【判決のポイント】
1)復職可能(または不可能)の証明責任は、労働者と会社のどちら側にあるのか?
休職期間中に本人から復職希望があった場合や休職期間が満了した場合、会社は「本当に復職できる程度まで回復しているのか」を確認しなければならない。本件では、正式復帰の前に「トライアル出社」というお試し期間を設けて様子をみた上で、健康管理委員会(人事部長・健康管理室長・産業医などで構成)の審議結果により復職不可の判断をしている。これに対して本人が「復職可能である(会社の判断は誤っている)」と反論するならば、その証明責任は本人にある。本件では、その立証は尽くされていないとして、未だ治癒・寛解に至っていないと判断された。
2)他の業務であれば遂行出来る場合、社内の全業務について配転の可能性を検討しなければならないのか?
片山組事件(最高裁平10.4.9)では、職種の限定がされていない労働者については、「労働者の能力、経験、地位、企業の規模、業種、労働者の配置・異動の実情や難易度等に照らして、その労働者を配置する現実的可能性がある他の業務について労務の提供をすることができるならば、労働契約に従った労務の提供をしているといえる」として、会社に欠勤期間中の賃金支払いを命じた。
しかし会社内には様々な業種が存在しており、その全ての業種について配転可能性を検討しなければならないかというと、そうではない。本件では、Xは「総合職」として雇用されており、本人も「総合職」での復職を希望していたため、配転可能性の検討範囲については、「会社内の『総合職』の範囲内の他業務を検討すればよい」としている。そして、被告会社の総合職は、営業職・管理系業務のいずれも対人折衝等の複雑な調整等にも堪え得る程度の精神状態が最低限必要であり、Xがその程度まで回復していたとはおよそ認められないとした。
【SPCの見解】
■本件と同様の論点を過去の記事(No.111 第一興商(本訴)事件)でも扱ったが、そこでもやはり「他業務への配転を検討せずに復職拒否したことは問題」として労働者側が勝訴している。会社にとっては過度な要求のようにも思えるが、一般の正社員(ゼネラリスト)は通常の場合でも会社の都合で職種転換されることがあり、それを想定した雇用形態であるため、復職を検討する場合にだけ都合よく「従前の業務が遂行できないなら復職させない」という取り扱いは違法となる可能性が高い。本件では、細かい職種限定で採用された労働者ではなかったが、「総合職」での採用であったことから、配転の可能性は「総合職」の範囲内でよいとされた点は、判断基準のひとつとして注目である。
労働新聞 2013/12/16/2949号より