年休の取得認められず欠勤控除、減額分を請求
阪神電気鉄道事件【東京地判 令和4年12月15日】
【事案の概要】
労働者(X)は、鉄道事業を営む(Y社)に雇用され、車掌として勤務していた。平成30年8月19日に、1ヶ月先の9月19日に年次有給休暇の取得申出を行い、Y社が時季変更権を行使したにもかかわらず、同日に出勤せず、1日分の賃金を欠勤控除され、翌日の20日に欠勤を理由とする注意指導を受けた。
Y社は、申請のあった9月19日はXよりも先んじて年休申請を認められたものが7名、研修等で勤務振替等が必要な者が5名おり、予備要員等の上限に達していた。
Xは、Y社の行った時季変更権は違法であり、減額された賃金および付加金、また違法な時季変更権を前提とする注意指導による不法行為として慰謝料50万円の請求を求めて提訴した。
【判決のポイント】
(1)弘前電報電話局事件(最二小判 昭和62年7月10日)では、使用者として“通常の配慮”をすれば、代替勤務者を確保することが客観的に可能な状況にあり、その配慮を使用者がしなかった結果、必要配置人員を欠くことをもって事業の正常な運営を妨げる場合に当たるとは言えないとした。
ここで言う“通常の配慮”とは、①勤務割変更の方法と頻度、②年休時季指定に対する会社の今までの対応、③労働者の作業内容等、④代替勤務の確保、⑤代替勤務者の確保しうるだけの時間的余裕、⑥週休制の運用がどのようになされてきたか等を考慮して判断されます。
(2)本件事案については、平成30年度に時季変更権を行使された割合は4.7%であり、おおむね希望した時に取得できる環境にあった。
Xの希望した9月19日は、他の年休希望者や社内行事のため勤務できない車掌がおり、Xに年休を付与すると確保していた代替勤務者を超える補充要員が必要になる他、勤務上限の順守といった問題に反しなければならない状況にあった。
また、乗務循環表は労使間の班会議にて各種調整をした上で決められたものであり、相当な労力をかけて作成している。このような過程で作成された表を、Xの年休取得により、分割して他の乗務員に担当させることも、Yが講ずべき通常の配慮と言うことはできない。
以上より、本件の時季変更権は適法であり、それに伴った注意指導も不法行為を構成しない。
【SPCの見解】
年次有給休暇は、基本的には労働者の請求する時季に与えなければならないとされつつ、請求された時季に与えることが事業の正常な運営を妨げる場合においては、使用者は他の時季にこれを与えることができる(時季変更権)とされています。
多くの裁判例でも、年次有給休暇は労働者の権利であることを含め、手厚く保護されています。
使用者としては、「繁忙期である」や「人手が足りない」といった理由だけでは時季変更権が行使できるわけでなく、日頃から年休取得に対して通常の配慮および労使間で話し合いを行っておくことが重要になります。
本件事案でも、時季変更権の行使は4.7%と低く(年休取得率は97%程度)、勤務表作成過程や代替勤務の確保など、年休取得や時季変更権に対しては適切な配慮ができていると認められました。
5日の取得義務など年次有給休暇に関するルールが変わり、使用者には対応が求められていますが、時季変更が必要な状況にならないよう、日ごろから業務内容や人員調整ができる職場づくりをしていくことも大切になります。