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定年引き下げという不利益変更が認められるためには?

      2016/02/23

大阪経済法律学園事件 【大阪地判 2014/02/15】
原告:大学教授Xら  /  被告:大学Y

【請求内容】
定年を70歳から67歳に引き下げた就業規則変更は無効として、70歳までの地位確認と、賃金・退職金を請求した。

【争  点】
定年を70歳から67歳に引き下げた就業規則変更は、労働条件の不利益変更であり、無効なのか?

【判  決】
定年の段階的引き下げ等の経過措置や、退職金の割増等の代償措置が不十分であり、合理性を有しないため無効。

【概  要】
大学に勤務する大学教授らが、大学の行った「定年を70歳から67歳に引き下げる」という就業規則の変更は無効であるとして提訴した。大学側は、「高齢に偏った教員の年齢構成を是正する必要」があり、また変更に伴う代償措置として、「定年は67歳に変更したが、再雇用制度により67歳以降も働ける」と主張した。

【確  認】
【就業規則による労働契約の内容の変更】 (労働契約法第9条・10条)
使用者は、原則として労働者の合意なく就業規則を変更して労働条件を不利益に変更してはいけない。しかし、 以下の二つの条件を満たした場合は許される。
①使用者が変更後の就業規則を労働者に周知させること。
②就業規則の変更が、労働者の受ける不利益の程度、労働条件の変更の必要性、変更後の就業規則の内容の相当性、労働組合等との交渉の状況その他の就業規則の変更に係る事情に照らして合理的なものであること。
これは、第四銀行事件(最判平9.2.28)などの、確立した最高裁判所の判例法理に沿って法制化されたものである。

 

【判決のポイント】

【労働契約法第10条に定められているポイントについて以下のとおり確認していく】
1)被告(大学)にとって定年年齢の引き下げは、必要性が高かったのか?
少子化および大学数の増加に伴う私立大学間の競争激化等の環境変化に対応するため、定年引き下げは一定の必要性があり、また満67歳という定年も合理的であるが、他方で教員の平均年齢の引き下げや年齢構成の偏りの是正は、中堅層の採用等によってある程度実現されており、緊急の課題とまではいえない。

2)大学が導入した「67歳以降の再雇用制度」は、定年引き下げの代償措置と認められるか?
「定年引き下げ」と「再雇用制度」を一体としてみれば、今までは70歳まで働くことができた労働者の一部について、「解雇理由がなくても、満67歳の時点で一度解雇できるようにした」ことと同様の効果しかなく、また、特別専任教員や客員教授の制度は、就業規則変更前から存在していたため、代償措置や経過措置としては認められない。

→以上のことから、本件定年の引き下げは、「使用者側の必要性」と「労働者の被る不利益」を比較すると後者の方が大きく、これに対する代償措置等も十分に尽くされているとは認められないから、合理性がなく無効である。


【参考】芝浦工業大学事件(東京高判平成17年3月30日)
72歳または70歳から65歳への定年引き下げについて、「財政状況の点からも高度の必要性があり」、「退職金加給・新優遇制度・シニア教職員制度など代償措置は不十分ではない」として、定年引き下げは有効とした。

【SPCの見解】

■定年の引き下げに限らず、就業規則変更による労働条件の不利益変更は、労働者にその不利益を受け入れてもらわなければ仕方がないといえるほどの高度の必要性と、不利益変更に対する代償措置や、変更を段階的に行う経過措置等を可能な限りとっていること等が求められる。本件と類似の判例である上記「芝浦工業大学事件」で不利益変更が認められたのは、本件では主張されなかった「財政状況の悪化」という高度の必要性があったことと、不利益を受ける労働者らに対してできる限りの代償措置を講じていたことがポイントであったといえる。代償措置・経過措置等を講じることなく行う一方的な不利益変更は、訴訟に発展した場合に敗訴するリスクが高いため、注意が必要である。

労働新聞 2014/2/17/2957号より

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