時間外労働はどの資料によって計算されるべきなのか?
2016/02/23
ヒロセ電機事件 【東京地判 2013/05/22】
原告:社員X / 被告:会社Y
【請求内容】
実際とは異なる労働時間の報告を強制されたとして、時間外・深夜割増,付加金,不法行為による損害賠償を請求。
【争 点】
①労働時間の認定はどの資料により行われるか?
②事業場外労働みなし制の適用はあるか?
【判 決】
時間外労働は毎日個別具体的に上長により管理されており、虚偽報告の強制の事実もないことから請求を棄却した。
【概 要】
会社Yでは、時間外労働は本人の希望を踏まえて毎日個別具体的に「時間外勤務命令書」により命じられており、所属長から命じられていない時間外勤務は認めないとしていたが、これに対して原告Xは、時間外労働について、実際とは異なる虚偽の報告を強制されていたため、「時間外勤務命令書」ではなく「入退館記録表」の時刻で労働時間を算定すべきと主張した。また事業場外労働みなし制の適用はないとして、実際の労働時間により算定すべきとした。
【確 認】
【時間外労働の算定方法の裁判例】 (①東京地判H25.2.28 ②京都地判H25.10.9 ③東京地判H22.3.25)
①タイムカードがあれば、その記録通りに労働時間を認定する場合が多いが、始業時間前に打刻があっても、特別の事情がない限り、始業時刻を業務開始時刻と認定するのが通常である。(早出残業には特別な事情が必要)
②タイムカードに加え、就業場所近くのインターチェンジの通過時刻によって判定した例もある。
③超過勤務手当支給の計算根拠となる「超過勤務命令簿」の時間と実際の労働時間が記載されていた「補助簿」の時間に乖離があったケースで、「管理者は実際の時間外労働の一部のみを命令簿に記載させて、超過勤務手当の申請を事実上抑制していた」として、実際の労働時間による超過勤務手当の支払いが命じられた。
【判決のポイント】
1)「時間外勤務命令書」と「入退館記録表」のどちらで労働時間を算定するべきか?
①会社Yでは、就業規則上、「時間外勤務は所属長からの指示によるもの」とされ、命じていない時間外労働は認めないとされていたこと。
②実際の運用として、時間外勤務については、本人の希望を踏まえて毎日個別具体的に時間外勤務命令書によって命じられていたこと。また実際に行われた時間外勤務については、時間外勤務が終わった後に本人が「実時間」として記載し、翌日それを所属長が確認することによって、把握されていたことは明らかであること。
③入退館記録表に記載された入館時刻から労働時間に従事していたとは認められず、始業時刻前の時間外労働については認められないこと。
④時間外労働について、会社から実際とは異なる虚偽の報告を強制されていたという証拠はないこと。
⇒ 以上のことから、「入退館記録表」ではなく「時間外勤務命令書」にて算定すべきであるとした。
2)「事業場外労働みなし制」の適用はあるか?
①Xの出張や直行直帰の場合に時間管理する者は同行していないので、会社Yは労働時間を把握できないこと。
②Xは、訪問先や訪問目的について指示を受けていたが、それ以上に「何時から何時までにいかなる業務を行うのか」等の具体的なスケジュールについて、詳細な指示を受けていたという事情は認められないこと。
⇒ 以上のことから、会社のXに対する具体的な指揮監督が及んでいるとはいえず、会社は労働時間を管理把握できないため、「事業場外労働みなし制」は適用されるとした。
【SPCの見解】
■会社側が何らかの手段で労働時間を管理していたとしても、それが実際の労働時間と乖離していた場合は「実際の労働時間は何時から何時までであったのか」という点が争点となる。ICカード等による入退館記録やパソコンの使用記録で調べる場合が多いが、そういった客観的な資料がない場合は、労働者のメモ等を根拠とした主張に対して、会社側がどれだけ客観的な証拠によって反論できるかという争いとなるだろう。労働者が残業代を稼ぐためにわざとダラダラと会社に残っているケースもあるが、そういった場合でも、会社がそれを放置していた場合は「黙示の残業命令があった」と判断されてしまうため、上司が労働者の業務内容や量をしっかり把握・管理することが求められる。
労働新聞 2014/2/10/2956号より