労働組合へ相談し情報漏えいしたと諭旨退職に
2024/07/16
【事案の概要】
控訴人(Y社)は、建物管理業を営む会社である。そのY社の従業員である被控訴人(X)は、清掃作業員の作業にミスに関するトラブルを、所属する労働組合に相談したところ、組合が議案書に記載し、定期大会で報告を行い、組合ホームページに議案書を掲載した。
Xは職務上知り得た情報を外部に漏えいしたとして、Y社から諭旨退職の懲戒処分を受けたが、退職届の提出に応じず、普通解雇された。本件普通解雇は無効であり、雇用契約上の地位確認を求めた控訴審である。
なお、一審(東京地裁 令和4年1月28日)は、本件懲戒処分は相当性を欠き、解雇無効であるとしたため、Y社が控訴した。
【判決のポイント】
- 本件情報漏えいが懲戒処分該当するか
Xは、入社時の誓約書や就業規則による守秘義務に基づく注意義務を負っていたにも関わらず、本件議案書がホームページに掲載されることも容認しており、就業規則に定める懲戒事由に該当すると言える。
- 懲戒処分の相当性はどうか
懲戒処分の検討にあたり、①行為の内容、性質、②行為の目的、③情報の真実性、④情報漏えいの結果、影響、⑤会社の情報管理、⑥処分対象者の言動や再発の可能性、⑦処分歴といった点を検討したうえで、判断することとなる。
以上より、Xの行った情報漏えいは懲戒処分の対象者になることは免れられないが、その量定に当たり、実質的に解雇に等しい諭旨退職処分は相当性を欠いており、無効である。
【SPCの見解】
吉村雄二郎弁護士の見解によると、情報漏えいの場合、以下の4つのパータンに分けて検討することが一般です。
- 故意で情報を持ち出し、第三者に開示した場合
→企業にとって重要な情報で、かつ背信性も高く、会社に与える損害も大きい場合は懲戒処分も可能です。
- 故意で情報を持ち出したが、第三者に開示していない場合
→第三者への開示目的が認められない場合、社内ルール違反として軽い処分(けん責、減給、出勤停止、降格)程度しか認められません。顧客への訪問計画を立てる目的で持ち出されたものであり、第三者への開示意思が認められないとして解雇無効と判断している事案(日産センチュリー証券事件 東京地裁 平成19年3月9日)があります。
- 過失の場合
→故意の場合と同様の懲戒処分(諭旨解雇や懲戒解雇)は難しく、内容に準じてけん責、減給、出勤停止、降格程度が相当な場合が多いです。
- 内部告発・公益通報の場合
→公益通報保護法による“公益通報”に該当する場合、そうした通報を理由とする懲戒処分は許されません。
また、仮に“公益通報”に該当しない告発であっても、真実性や手段等の総合判断により懲戒処分ができない場合もあります(大阪いずみ市民生協事件 大阪地裁堺支部 平成15年6月18日)。
労働者側には、雇用契約に付随する形で使用者の業務上の秘密を洩らさない義務を負います。
実際に情報漏えいが起きた場合には、故意か過失か、目的、対象者の地位、日頃の情報管理、漏えいした情報の程度、会社の受ける影響などを検討し、処分を判断することとなります。
故意や悪質性がない場合、解雇に等しい処分は難しい傾向にありますので、処分を検討する上では慎重さが求められます。