理学療法士を新部門へ転換、無効とした一審は
2024/07/16
社会福祉法人秀峰会事件【東京高判 令和5年8月31日】
【事案の概要】
理学療法士(X)は特別養護老人ホームを営む(Y)に平成17年1月、職種や勤務地限定がなく、期間の定めのない雇用契約を締結した。
Xは令和2年11月に、同年12月16日をもってY社の産業理学療法部門(新部門)への異動の辞令を受けた。Xはこの異動辞令は無効であり、労働審判を申立てXの主張が認められたが、Y社が異議を申し立て訴訟に移行した。
一審の横浜池判(令和4年12月9日)は、Xの主張を認め、Y社に不法行為責任による損害賠償50万円も認めたが、Y社が控訴した事案。
【判決のポイント】
使用者が労働者に対して行う配転命令については、東亜ペイント事件(最二小判 昭和61年7月14日)の判断基準である(1)配転命令の必要性、(2)不当な動機・目的がないか、(3)労働者の甘受すべき不利益の程度に基づいて判断されています。東京高裁はXの請求を棄却しました。
- 配転命令の必要性
Y社では新部門を設立し、健康増進や労働災害防止を目的に産業理学療法士の知見を頼り、新部門に配置する必要性は肯定できる。その点で、Xは理学療法士の資格を有し、長年の勤務経験もあるため、この目的に携わるのに適していたと認められる。
- 不当な動機・目的がないか
配転命令に関してのXの不利益の程度は、賃金や休日、終業時刻についても配転前と同様の条件が維持され、通常甘受すべき不利益の程度と言える。
Xの主張する「理学療法士のやりがいを持つことが困難となり、技術が劣化する。」や「通勤時間が15分程度長くなった。」はいずれも主観的な不利益の範囲に留まる。
- 労働者の甘受すべき不利益の程度
嫌がらせや退職強要の目的を持って配転命令がなされた事情は認められない。
以上より、本件配転命令はY社の業務上の必要性が存するところ、不当な動機・目的をもってなされたものとは言えず、Xに通常甘受すべき程度を著しく超える不利益を負わせるものとは言えない(配転命令は有効である)。
【SPCの見解】
使用者が配置転換を命じる場合には労働契約上の根拠が必要になり、根拠とは就業規則や個別労働契約に「業務上の必要性がある場合は配置転換を命ずることができる。」旨の記載が必要になります。その文言があるか自社の規程を確認する必要があります。
また、地域限定や職種限定の採用/契約も増えているため、原則はその合意の範囲内に限定されることとなります。
配転命令権が権利の濫用に当たるかどうか、上記の東亜ペイント事件の判断基準をみていく必要があります。
近年は、育児・介護休業法第26条にある通り“就業場所の変更等により、子の養育や家族の介護を行うことが困難となる労働者に、状況に応じて配慮しなければならない”とされており、より慎重な対応が求められます。