労務相談、管理者研修、未払い残業代請求対策なら労務管理センター

業務終了後の自習時間も労働時間なのか?

      2016/02/23

医療法人甲会事件 【札幌高判 2013/11/21】
原告:Xの両親  /  被告:Y社

【請求内容】
Xのうつ病発症による自殺はY社の安全配慮義務違反によるものであるとして、損害賠償を請求した。

【争  点】
業務終了後の自習時間まで、うつ病発症の原因である時間外労働にカウントされてしまうのか?

【判  決】
業務と密接に関連する自習は(過重負荷の評価上は)労働時間であり、Y社に安全配慮義務違反があったといえる。

【概  要】
新人の臨床検査技師Xが、入社後約半年で自殺した。Xは本件自殺の1か月前に限ってみれば、残業時間と自習時間の合計は96時間におよび、これは精神疾患発症が早まるとされる1か月当たり100時間とほぼ見合う時間外労働をしていたといえるが、第一審では、「Xが自らの意思で本件自習をやめることができたこと」や、「Y社は、Xが精神疾患を発症することまでを予測することは相当に難しかった」として、原告の請求を棄却した。本件はその控訴審。

【確  認】
【予見可能性】
使用者に安全配慮義務違反があったというためには、「(例えば本件なら)このままでは労働者が精神障害を起こすかもしれないな」と使用者側が予見していたか(または予見できたか)という、「予見可能性」が必要とされる。  しかし、具体的疾患の発症を予見できなくても、「部下の残業が最近多いようだ」という事実を上司が知っていただけでも予見可能性があったと判断されてしまう。何故なら「残業が多い ⇒ 疲労が溜まる ⇒ 心身の健康を損なうおそれがある」ということは、既に一般的に知られていることであるためである。そして、予見していた(又はできた)にもかかわらず具体的な措置を講じなかった場合は、会社に安全配慮義務違反が認められることになる。

 

【判決のポイント】

■業務終了後の自習時間は労働時間なのか?
本件自習時間では、Xが新しく担当することになった超音波の知識、技術を習得するための「業務と密接に関連する自習」がされていたと認めるのが相当であるから、本件自殺の1か月前に限ってみれば、少なくとも過重負荷の評価において労働時間とみるのが相当である。

■Xのうつ病・自殺と業務との間に相当因果関係があったか?
①Xは本件自殺の1か月前に限ってみれば、残業時間と自習時間の合計は96時間におよび、これは精神疾患発症が早まるとされる1か月当たり100時間とほぼ見合う時間外労働をしていたといえる。
②Xには、業務の他にうつ病を発症したり、自殺の原因となるような個体的要因、業務以外の心理的負荷が見当たらなかった。
⇒以上の点から、業務による心理的負荷の過度な蓄積によりうつ病エピソードを発症し、自殺に至ったといえる。

■Xがうつ病を発症するおそれがあったことについて、Y社に予見可能性があったといえるか?
長時間労働によって労働者が精神障害を発症し自殺に至った場合において、使用者が長時間労働等の実態を認識し、又は認識し得る限り、使用者の予見可能性に欠けるところはないというべきであり、うつ病等の精神障害を発症していたことの具体的認識等を要するものではない。Y社は、Xが時間外労働や時間外労働と同視されるべき本件自習をしていたこと等を認識し、あるいは容易に認識し得たと認められる。

【SPCの見解】

■一般的に、業務命令ではない自主的な自習時間は労働時間ではないとされている。しかし、本件の争点は時間外手当の支払い等ではなく「うつ病・自殺の原因となった心理的負荷」であるため、論点も少し異なる。なぜ、遅くまで”自習”せざるを得なかったのか?もし、それが難易度の高い業務に対応するためにやらざるを得ないような場合は、それは間接的な強制によるものであり、労働者は強いストレスを感じる。それを「自習なら自分の意思でいつでもやめることができるはず」というのは酷だろう。使用者は、それが労基法上の時間外労働に当たるか否かとは関係なく、労働者の業務にまつわる作業時間(自習を含む)を把握し、心身の健康状態に配慮する義務があるといえる。

労働新聞 2014/6/02/2971号より

 - , , ,

CELL四位一体マトリック
労働判例