転職するため経理データを持ち出したと懲戒解雇
スカイコート事件【東京地判 令和5年5月24日】
【事案の概要】
従業員(X)は平成7年6月21日、不動産販売等を目的とするY社と期間の定めのない労働契約を締結し、令和2年11月当時、経理部長代理として勤務していた。
Xは令和2年2月~同年11月にかけてY社の元代表取締役である税理士に月次資料等を送信した。また、Xは転職のため、Y社に対して令和2年12月末限りで退職する旨の意思表示を行った。その退職の意思表示後、サーバーに保存されていた経理データを私物のUSBメモリに複製して持ち出した。
この持ち出し行為に対しての社内での聞き取りに対して、行為を認めた上で、「USBメモリは駅のゴミ箱に捨てた。」旨の説明を行ったが、後に虚偽説明であった判明した。
令和2年12月30日、Xの持ち出したデータは“重大な機密”に該当し、本件送信行為や持ち出し行為、虚偽説明による懲戒解雇処分とし、退職金を不支給とした。
Xは退職金を求めて提訴した。
【判決のポイント】
(1)Xの送信や持ち出し行為は、Y社の保有するデータをもとに、転職先で利用し、利益を図ったと評価するのが相当である。複製されたデータは、Y社の顧客情報や取引に関する情報などが含まれており、これらが流出した場合はY社の事業に重大な支障が生じるものであるから“重大な機密”に該当する。
(2)不正競争防止法の営業秘密は刑事罰も含めた規制がされているため、その範囲は限定的に解すべきである。しかし、就業規則や雇用契約上の付随義務として負っている秘密保持義務の対象となる秘密に関してはそこまで限定的に解する必要はなく、当該データは“重大な機密”に該当する。
(3)データを複製したUSBメモリを「駅のゴミ箱に捨てた。」とする虚偽説明は、Y社の調査を混乱させたとして懲戒事由に該当する。
上記の(1)~(3)の行為は、これまでの功労報償を完全に相殺する悪質な行為であり、Xは退職金を請求できない。
また、労働者が労働契約上の信義則として営業上の秘密を保持する義務を負っている。これは、不正競争防止法上の「営業秘密」と同義ではない。
不正競争防止法上の「営業秘密」として保護されるためには、①秘密管理性/②有用性/③非公知性の3要件を満たす必要がある。
一方、労働契約上の保護される営業秘密はこれに限定されるべきでなく、秘密管理性を欠いた情報でも企業にとって重大なものであれば保護の対象になる。
【SPCの見解】
ネット情報にはなりますが、持ち出した会社の情報は約8000ファイルにも及んだとのことです。それらを転職先で使用し、会社にとって重大な損害が生じる可能性があったことなどが考慮され、勤続25年もの退職金を減殺する行為と判断されました。
令和6年2月に発表された経済産業省の『秘密情報の保護ハンドブック』において、情報漏えいの原因として約25%が“退職者による漏えい”となっています。
社内での機密情報に対しては、①保有する情報の把握、②取扱いに関するルール作り、③漏えいした場合の対応等を検討する必要があります。
情報漏洩の流出は、会社の信用問題にも影響します。社内の管理体制と従業員の教育をバランスよく行っていくことが重要になります。