試用期間中の解雇(留保解約権)
2016/02/23
日本基礎技術事件 【大坂地判 2012/02/10】
原告:新卒社員X / 被告:会社
【請求内容】
試用期間6ヶ月で採用された新卒社員が6ヶ月経過前に解雇されたのは無効として労働契約上の地位確認を求めた。
【争 点】
試用期間中の解雇も、普通解雇の場合と同様に厳格な要件で判断するべきか?
【判 決】
試用期間に解雇権の留保約款を設けることは合理性があり、普通解雇より広い範囲での解雇が認められる。
【概 要】
新卒社員Xが6ヶ月の試用期間の4ヶ月経過時点で、勤務態度が不適当(睡眠不足で注意力を欠き注意しても改まらない、研修中の門限を破る等)であるとして解雇された。会社の就業規則には「見習い期間の途中または終了時に、能力、勤務態度、健康状態等に関して不適当な者は、定められた手続きによって解雇する」と規定されていた。
会社は、Xに繰返し指導したが改善が見られず、改善は難しいと判断し解雇したが、Xは解雇権の濫用であると主張した。
【確 認】
【留保解約権とは】
正社員を本採用する前に一定の試用期間をおいて、この間に適格性を判断し、使用者が適格性なしと判断したときは、試用期間終了後に本採用を拒否(解雇)できるというもの。
本採用を拒否する場合には、勤務成績不良、態度不良など、適格性欠如の具体的根拠を示す必要があり、裁判ではその判断の妥当性が客観的に判定されることになるが、試用期間中の解雇は、通常の解雇の場合よりも広い範囲における解雇の自由が認められるとされている。
なお、試用開始14日以内に解雇する場合は解雇予告なしに即時解雇できるが、14日を超えれば、30日前の解雇予告又は30日分の解雇予告手当の支払いが必要になる。
(但し、所轄労働基準監督署長の認定を受けた場合は不要。)
【判決のポイント】
1)試用期間中の解雇が、通常の解雇よりも広い範囲で解雇の自由が認められているのは何故か?
新規採用者(特に中途よりも新卒採用者)においては、その者の資質、性格、能力などのいわゆる管理職要員としての適格性の有無を採用の時点では十分に調査できないため、一定の試用期間を設けてその間に調査・観察し、最終決定を留保することは合理性があるといえる。
但し、試用期間について就業規則に定めがあり、試用期間の長さが適正(通常3ヶ月~6ヶ月)であることが必要である。
2)試用期間中の解雇はどの時点で行うべきか? 本判決では試用期間途中での解雇も有効とされたが、他の判例では無効とされた例もあるので注意が必要である。
【医療法人財団健和会事件(東京地判平21.10.15)】
試用期間の途中で解雇された事案について「勤務状況等が改善傾向にあり、本人の努力如何によっては、残りの試用期間を勤務することによって改善する可能性もあったのに試用期間満了前に適性に欠けると判断して解雇したことは『解雇すべき時期の選択を誤ったもの』であり、本件の本採用拒否は合理的理由がなく、社会通念上相当とはいえないため無効」とした。
⇒原則は、試用期間満了ギリギリまでの勤務状況にて見極めるのが望ましいが、それでも試用期間が残っているうちに解雇したい場合は、それまでの勤務状況によって「本採用できないと判断するだけの理由が十分あるか?」という点を再確認すべきである。
また、試用期間中の十分な指導の有無も重視されるため注意が必要である。
【SPCの見解】
■試用期間中の解雇は通常の解雇より広い範囲で認められるといえども、やはり解雇するためには客観的に合理的な理由・社会通念上の相当性が求められるため、いざ争いになった場合にこれを主張できるようにすることが重要である。例えば、試用期間中の労働者の問題行動について、日時と行動内容を記録しておき、それについて会社 側が行った指導も併せて記載しておく(業務報告書等の様式で上司に報告しておく)ことや、問題労働者本人に、業務指導書等の様式で達成目標と期日を知らせ、業務態度への指導を行うのが良いと考えられる。
また、試用期間の延長はトラブルの元となるので、初めから長め(6ヶ月)に設定し、必要に応じて短縮するのが良いと思われる。
労働新聞 2012/9/10/2888号より