管理職が酒気帯びで逮捕、退職手当不支給は違法か?
2016/02/23
三重県・県教委事件 【名古屋高 2013/09/05】
原告:県立高校職員X / 被告:Y県
【請求内容】
懲戒免職に伴い約2,500万円の退職手当を全額不支給とされたための処分の取消しを請求。
【争 点】
管理職である立場の公立学校職員Xが私生活上で行った酒気帯び運転に対する処分は妥当であるか。
【判 決】
法違反の3倍の濃度で悪質、指導体制にも悪影響を及ぼす可能性があり、退職金の全額不支給は適法とした。
【概 要】
原告Xは、町内の夏祭りの打合せ会にて飲酒(瓶ビール2本、缶酎ハイ2本)し、道交法65条1項違反により検挙された。罰金30万円および運転免許の取消処分を学校に約2ヵ月間報告せず、匿名の電話で発覚。地方公務員法、Yの公立高校職員の退職手当に関する条例により免職および退職手当不支給処分を受けたがこれを不服をして処分取消しを求めて提訴。一審は退職金不支給のみ違法としたが、名古屋高裁は全額不支給も適法であると判示した。
【確 認】
処分量定の決定に用いられる基準(人事院事務総長発 懲戒処分の指針 最終改正:平成27年2月27日より)
①非違行為の動機、態様及び結果②故意又は過失の度合い③非違行為を行った者の職責④他の職員及び社会に与える影響⑤過去の非違行為の有無 等 その他日頃の勤務態度や非違行為後の対応等を含めて総合的に考慮判断される。
標準例より軽いものとされる要因例
①自らの非違行為が発覚する前に自主的に申し出たとき②非違行為を行うに至った経緯その他情状に特に酌量すべきものがあると認められるとき 等
【判決のポイント】
■1.本件飲酒運転の悪質さとXの立場について
アルコール濃度が呼気1リットル中に0.54mgと高濃度であり、道交法違反として処罰される最下限(呼気1リットル当たり0.15mg)の3倍を超えていた。これについて酌量すべき事情があるとは言えない。またXは、交通法規を含めた法令の遵守などの教育を担う公務員であり、しかも管理職として飲酒運転の撲滅を指導監督する立場であった。そのため、高校の生徒、保護者を含め地域社会のYに対する信頼を損ねたと言える。
■2.酌量事情について
当該非違行為は私生活上の非違行為であり、交通事故は伴わず実害は生じていない。公務執行にも具体的な支障は生じておらず、Xは深く反省していた。過去39年間の勤務において懲戒処分歴はなく、勤務状況に問題はなかった。定年間際となって退職手当の受給権を失い、その打撃が大きいと言える。
■1と2の双方を比較衡量する
飲酒運転撲滅に向けた社会秩序維持の強い要請の下では、酌量事情を考慮しても免職処分および本件不支給処分についてその裁量を逸脱、濫用したとまでは言えない。
■その他裁判例
元中学教頭の酒気帯び運転について、控訴審において退職手当の全額不支給が適法であると逆転判決が下された京都市教育委員会事件や、酒気帯び運転をして物損事故を起こし逃走した日本郵便会社社員について退職金の全額不支給は許されないと控訴審で判断されたケースがある。
【SPCの見解】
本判決は2,500万円もの退職手当の不支給が適法とされた職員には厳しい判断となったが、常日頃より背筋を伸ばした振る舞いが求められる公務員が行った非違行為でもあったため、飲酒運転が引き起こした悲しい事件を背景に飲酒運転に特に厳しい現代の社会においては妥当と言えるのかもしれない。判決のポイントに記載したその他裁判例において真逆な判断が下されているのには、職員の立場の違いが大きいであろう。本判決も同様に責任のある立場にある者が行った非違行為についてはその責任も重い。今回のケースが公務員によるものであったとはいえ、懲戒処分の量定の決定に用いられる基準の視点は民間企業においても参考となる。
労働新聞 2015/03/23 /3010号より