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労災保険給付を受給し休業、打切補償で解雇可能?

      2016/02/22

専修大学事件 【最二小判 2015/06/08】
原告:労働者  /  被告:大学

【請求内容】
業務上傷病で休業中、平均賃金1200日分の打切補償を支払い解雇したところ地位確認を求められた。

【争  点】
原審は使用者から災害補償を受けず打切補償の条件を満たさないとしたが、労災給付は使用者の補償と実質同じか。

【判  決】
本件は、治ゆまで給付は続き、労働者の保護を欠くともいえないから、労災給付は使用者の補償と実質同じと判断。

【概  要】
業務上の疾病により欠勤・休業し労働者災害補償保険法に基づく療養補償給付および休業補償給付を受けている労働者が、大学から打切補償として平均賃金1200日分相当額の支払いを受けたうえでされた解雇につき、労働者は労基法81条にいう同法75条の規定によって補償を受ける労働者に該当せず、解雇は同法19条1項ただし書所定の場合に該当するものではなく同項に違反し無効であるとして、大学を相手に労働契約上の地位の確認等を求めた。

【確  認】
(1)労災保険法は、業務上の疾病など業務災害に対し迅速かつ公正な保護をするための労働者災害補償保険制度の創設等を目的として制定されている。同法84条1項が、労災保険法に基づいて各保険給付が行われるべき場合には使用者はその給付の範囲内において災害補償の義務を免れる旨を規定している。(2)労基法81条の定める打切補償の制度は、使用者において、相当額の補償を行うことにより、以後の災害補償を打ち切ることができるものとするとともに、同法19条1項ただし書においてこれを同項本文の解雇制限の除外事由としている。労災保険法の療養補償給付を受ける労働者は、解雇制限に関する労基法19条1項の適用に関しては、同項ただし書が打切補償の根拠規定として掲げる同法81条にいう同法75条の規定によって補償を受ける労働者に含まれるものとみるのが相当である。

 

【判決のポイント】

■第一審および控訴審判決は本件の労基法19条の解雇制限の解除を否定した。
労基法19条は、業務災害の療養休業期間中およびその後の30日の解雇を禁止している。しかし、療養期間が長期化する場合に未来永劫このような労働者を解雇できないとするのも適切でない。そこで、法はその場合同法81条によって療養開始後3年を経過しても負傷または疾病が治らない場合に平均賃金の1200日分を払うことで(打切補償)、労基法19条の解雇制限が解除される仕組みを用意している(同法19条1項ただし書)。ところで同法81条の打切補償の対象となる労働者は、「75条の規定によって補償を受ける労働者」となっており、同法75条は使用者自らによる療養補償義務を定めているに過ぎず、労災保険法に基づく療養補償給付および休業補償給付を受けている労働者については何ら言及がない。したがって、これを厳格に条文どおり解釈すると、労災給付によって補償を受けている労働者については同法81条の打切補償による解雇制限の解除はできないとの見解も成り立つことになる。
■最高裁判決は、労災保険給付と使用者自らの災害補償の実質的同一性を説き、労基法19条の解雇制限の解除容認 原審の判断に対しては、とくに使用者側から、何のための労災保険制度かと大変不評であったことはいうまでもない(長期療養の労働者について傷病補償年金の支給がなされる場合を除き、解雇が定年に至るまでできず、使用者はその間社会保険料等の負担を強いられることになる)。最高裁の判断は、極めて常識に適ったものというべきである。 なお、本判決は、「解雇の有効性に関する労働契約法16条該当性の有無等について更に審理を尽くさせるため」原審に差し戻した。

【SPCの見解】

■本判決に基づいて以下の規定を提案します。
普通解雇の規定にかかわらず、次の各号の一に該当する期間は、解雇しない。ただし、業務上の負傷または疾病で療養開始後3年を経過しても治らない場合で、従業員に打切補償(平均賃金の1,200日分)を支払ったとき、またはそれ以降に傷病補償年金が支給されている場合は、この限りではない。
1,業務上の傷病にかかり療養のため休業する期間およびその後30日間
2,産前産後に休業する期間およびその後30日間

労働新聞 2015/8/24 / 3030号より

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