正社員登用予定の有期雇用労働者の雇止め
2016/02/23
日本航空(雇止め)事件 【東京地判 2011/10/31】
原告:客室乗務員X / 被告:Y社
【請求内容】
2年の契約期間満了による雇止めは無効として地位確認等を求め、また、違法な退職勧奨による慰謝料を請求した。
【争 点】
客室乗務員Xの雇止め(業務上のミスが繰返し多数回あったため)の合理性と退職勧奨の違法性の有無。
【判 決】
丁寧な指導をするも改善の見込みがなく雇止めは有効だが、本人が自主退職拒否をした後も続いた退職勧奨は違法。
【概 要】
2年の契約期間満了による雇止めは無効として地位確認等を求め、また、違法な退職勧奨による慰謝料を請求した。
客室乗務員Xの雇止め(業務上のミスが繰返し多数回あったため)の合理性と退職勧奨の違法性の有無。
丁寧な指導をするも改善の見込みがなく雇止めは有効だが、本人が自主退職拒否をした後も続いた退職勧奨は違法。
Y社の客室乗務員は、まず1年間の有期雇用契約社員(更新2回限度)として採用され、3年経過した後に本人の希望・適性・勤務実績を踏まえて正社員に登用される。客室乗務員であるXは、1年目の勤務状況につき数多くの問題があり、経過観察するも改善がされなかったため2年目の期間満了により雇止めされた。Xは雇止めの前に退職勧奨を受けており、書面で自主退職しないと意思表示するも、懲戒免職の可能性を示してさらに退職勧奨を受けた。
【確 認】
【退職勧奨】
会社から労働者に退職の誘引をすることをいい、会社の一方的意思表示で雇用契約が解約される「解雇」とは異なる。労働者が退職勧奨に応じた場合は「合意退職」となる。
<無効となる退職勧奨>
■ 労働者が退職を拒否しているにもかかわらず繰り返し退職勧奨を続ける、退職に追い込むよう執拗に迫る等
■ 女性であることや労働組合員であること、婚姻、妊娠、出産などの差別的な理由で退職勧奨をすること
■ 退職勧奨を拒否した者に対して、嫌がらせ目的の異動を命じたり、給与を減額したりする等
【判決のポイント】
【ポイント1】解雇権濫用法理の適用の有無期間満了の雇止めには通常「正当な理由」は求められないが「長期雇用に合理的な期待を抱いていた」場合は、雇止めにも、解雇の合理性を判断する際に用いられる「解雇権濫用法理」が類推適用される。今回は、正社員登用を前提とした有期雇用契約であったため、長期雇用への合理的期待を否定するのは困難(期待あり)と判断された。
【ポイント2】雇止めの合理性・相当性の判断
Xが客室乗務員として「適格性なし」として更新・正社員登用しなかったことが相当か否かを判断する。
①正社員登用への育成プログラムがあり、契約社員は教育訓練を受けながら実際の勤務に就き、勤務状況について
きちんとした指導・評価を受けて更新の可否が判断されていた。
②Xの1年目の勤務状況には問題があったため、契約は更新されたものの3ヶ月の経過観察期間とされ、更新時に
「改善がない場合には契約終了もあり得る」と伝えたが、その後もXはミスを繰り返した。
③Y社は経過観察期間後も挽回の機会を与えたが、Xには改善が見られなかった。
⇒育成制度も整備されており、丁寧な指導と記録がされていたことから、Xへの適格性欠如の評価は不合理でない。
【ポイント3】退職勧奨の違法性
本件では、Xが書面で明確に自主退職しない意思表示をした後に、上司が懲戒免職の可能性を示して退職を求めており、職務上の関係や面談の時間などの諸事情も考慮すると違法であり、不法行為により慰謝料20万円を認めた。
【SPCの見解】
■今夏、改正労働契約法が成立したこともあり「有期雇用労働者の雇止め」問題は今後さらに増加すると考えられるため、参考とすべき判例である。今回、正社員登用への合理的期待を抱いていた労働者の雇止めが認められたのは「育成制度が整備されていた」「丁寧な指導・育成の努力・公正な評価・指導記録があった」という、企業としてしっかりとした制度や対応があったという点が非常に大きい。今後は期間満了による雇止めをするにしても、期間満了以外の正当な理由を求められる可能性が高まるため、しっかりした対応は不可欠である。また、違法な退職 勧奨は、本来有効とされるような雇止めすらも違法無効としてしまう可能性があるため非常にリスクが高い。
労働新聞 2012/10/01/2891号より