精神障害治癒の判断とうつの所見
2016/02/23
建設技術研究所事件 【大坂地判 2012/02/15】
原告:労働者X / 被告:会社(Y社)
【請求内容】
①解雇無効による地位確認と給与の支払い請求 ②長時間労働について、会社の安全配慮義務違反による慰謝料請求
【争 点】
①解雇の時点で、Xの精神疾患は治癒していたか?(解雇制限の問題) ②精神疾患の発症は長時間労働が原因か?
【判 決】
①退職1年前頃には完治しており解雇は有効。 ②精神疾患は過重業務が原因であり、慰謝料400万円が相当である。
【概 要】
Xは長時間労働が常態化しており、午後2時以降までの残業が50回程度(うち午前6時までの残業が10回以上)あり、休日出勤も多く、年間労働時間が約3565.5時間、時間外労働が月平均約135時間であった。その後Xは朝の出社前の嘔吐、倦怠感の症状が発生し、身体表現性障害と診断され1ヶ月療養した。その後ほぼ寛解と診断されたが欠勤し続けため、正当な理由のない欠勤が続いていることを理由として解雇された。
【確 認】
【解雇制限】労働基準法 第19条1項
労働者が「業務上」負傷し又は疾病にかかり、療養のために休業する期間及びその後30日は解雇できない。
【安全配慮義務】労働契約法 第5条
会社が、社員の生命・身体等の安全が確保されるよう配慮する義務のこと。会社がこの義務を怠ったために労働者が事故や病気に至ったとき(長時間労働により労働者が心身を故障した場合もこれに含まれる)は損害賠償責任が生じる。どの程度の時間外労働が安全配慮義務違反となるという明確な基準はないが、長時間労働と精神障害(うつ等)の関連については、平成23年12月に新たな労災認定基準が設けられたので、これがひとつの基準となるだろう。
【判決のポイント】
この判例では、【解雇の有効性】と【安全配慮義務違反による損害賠償】ついて分けて考える必要があり、結論から言えば、「解雇は有効」だが、会社には「安全配慮義務違反があり慰謝料の支払い」が命じられた。
1)なぜ解雇が有効なのか?(なぜ解雇制限にかからなかったのか?)
①Xがかかっていたのは「うつ病」ではなく、かかっていた精神障害も解雇の1年前頃には完治していた。
(うつ病と診断した医師もいたが、その他複数の医師の診断ではうつ病の診断基準を満たさなかった)
②「抑うつ状態」はあくまで症状であり、病名を特定するものではない。(うつ病とは別物である)
③会社はXに、出勤するか、休養の必要性を認める診断書を提出するよう繰返し求めたが、そのどちらもされず、Xは正当な理由なく約4ヵ月半にわたり欠勤し続けた。
2)会社の安全配慮義務違反とは?
Xが過重労働により精神疾患を発症し、健康状態が悪化していることを認識しながら、その負担軽減措置をとらなかったという過失があった。
<うつ病の症状(判断基準)>
・生気に乏しい・憂鬱で疲労感の漂う顔貌・精神運動障害をあらわす焦燥性・遅滞ないし静止・思考の渋滞
・自罰的であり、自らの至らない点を自ら必要以上に責めてしまう性向がある。
【SPCの見解】
■平成23年12月に新たに設けられた精神障害の労災認定基準によると「発病直前の1か月におおむね160時間以上(3週間なら120時間以上)の時間外労働」があった場合には、かなりの高確率で過重労働が原因の精神疾患であると判断されてしまう。また、過労死(脳・心臓疾患)の労災認定基準では、月80~100時間が認定の基準になっていることも考えると、月の時間外労働が80時間を超えていると、会社の安全配慮義務違反を問われる可能性がある。会社は、労働者の労働時間を常にチェックし、オーバーしている労働者がいれば、労働時間削減の配慮と健康状態の確認をしっかり行う必要がある。上記のようなうつ病と疑わしき症状が見られる労働者がいれば専門医の受診を促すべきであろう。
労働新聞 2012/10/29/2894号より