試用期間中の解雇(留保解約権)
2016/02/23
NEXX事件 【東京地判 2012/02/27】
原告:元労働者X / 被告:会社
【請求内容】
在職中にされた20%賃金減額について、不法行為に基づく損害賠償 、賃金減額分の支払い等を請求した。
【争 点】
労働者が20%減額された賃金を異議を述べずに3年間受領した事実をもって「黙示の合意があった」といえるか?
【判 決】
反対の意思表示が困難な環境や減額幅の大きさを考慮すると、黙示の合意は成立せず、賃金減額は無効とした。
【概 要】
Xは会社の業績悪化を理由に月額60万円の賃金を20%減額された。Xはこれに異議を述べることなく3年間受領し続けたが、その後、要求書により月額60万円の給与支払いを求めた。会社はこれに応じず、さらにXを「業務命令無視、反抗の継続、職務遂行能力の欠如」等を理由として普通解雇した。賃金については契約の際に「本人の勤務状況・成績等と会社の業績状況に鑑み、会社の判断により調整する」とされていた。
【確 認】
【労働条件の不利益変更をする方法】
1)労働者の個別的合意・・・・・原則はこれによるべきである。
2)労働協約の締結(使用者と労働組合で締結)
3)就業規則の変更・・・・・使用者による一方的な変更のため、変更の必要性・内容の相当性等が問われる。
4)変更解約告知(同意しない労働者は解雇する条件付き不利益変更通知)・・・・・これは批判が強くリスクが高い。
5)身分の変更・人事考課の結果・・・・・人事権の行使は原則自由だが、適正な評価や妥当性が求められる。
【判決のポイント】
■3年間にわたり異議を述べずに減額した賃金を受領し続けても「黙示の合意」が成立しないのは何故か?
⇒黙示の合意が成立するには、労働者がその賃金減額を「真意に基づき受け入れた」といえる合理的な理由が必要。
<今回のケース>
① 会社には正社員が2名しかおらず、反対の声を上げることが困難な状況にあった。
② 減額幅が20%減と非常に大幅なものであった。
③ 激変緩和措置や代替的な労働条件の改善策が盛り込まれていなかった。
④ 賃金減額についての説明会を実施し、業績が振るわないためであると理由を説明したものの、説明は抽象的で、客観的な資料を示すなど、理解を求めるための具体的な説明を行ったわけではない。
⇒以上のことから、たとえ3年間にわたり減額した賃金を受領し続けていたとしても、Xが20%賃金減額を「真意に基づき受け入れた」とは認められない。よって、黙示の合意は成立しておらず、賃金減額は無効である。
<労働条件の不利益変更についての黙示の合意には、他にも類似の判例がある>
【技術翻訳事件】⇒(※)判例No.37を参照
【光和商事事件】成果主義の導入により賃金を歩合給制にしたことの有効性を争った事件
事前に十分な説明をしたこと、歩合給制導入に合理的な理由(社員を奮起させて実績向上を図る目的)があったこと、歩合給制により給与が上がった者もおり、成果主義導入を歓迎する者もいたこと等から有効とされた。
【SPCの見解】
■不利益変更(特に賃金の減額)は労働者に大きな影響を及ぼすため、基本的には個別の同意を得るべきである。今回のように、労働者が特に文句も言わず大人しく減額した賃金を受け取っていたからといって安心していると、何年も経過してから差額の支払いを請求される場合がある。賃金の時効は2年(労働基準法115条)であるため、2年分の差額を遡って支払うことになれば会社にとって大きな打撃となる。賃金の減額は、個別の同意を得て、可能な限り書面化しておくことが望ましいだろう。不利益変更について、黙示の合意が認められるのはかなり難しいということを肝に銘じておく必要がある。
労働新聞 2012/11/05/2895号より