非常勤講師の更新への期待は合理的か?
2016/02/23
学校法人加茂暁星学園事件 【東京高判 2012/02/22】
原告:非常勤講師 / 被告:学校
【請求内容】
非常勤講師として長年勤務したX1,X2が雇止めされたのは不当として地位確認と未払い賃金、遅延損害金を請求。
【争 点】
非常勤講師の契約更新への期待は、合理性があるといえるか?
【判 決】
非常勤講師の担当授業が生ずるかは明らかではないから非常勤講師の更新への期待に合理性はなく請求を棄却した。
【概 要】
非常勤講師としてY校に25年勤務したX1と17年勤務したX2が雇止めされた。非常勤講師は、クラス担任及び生活指導は行わず、公務分掌にも入っておらず、兼職も禁止されておらず(現にX1らは他校と兼務していた)、給与体系や適用される就業規則が専任教員と異なり、勤務時間数も各年度の各学科のクラス編成数や生徒の科目選択によって変動するものであった。(専任教員は基本的に1週40時間以内と決まっていた)
【確 認】
【改正労働契約法第19条】※「雇止め法理」の法定化下記の①、②のいずれかに該当する場合に、雇止めが「客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められないとき」は雇止めが認められず、労働者が申し込めば従前と同一の労働条件で有期労働契約が更新される。
① (実質無期契約タイプ)反復更新された有期労働契約で、その雇止めが無期労働契約の解雇と社会通念上同視できると認められるもの
② (期待保護タイプ)労働者において、有期労働契約の契約期間の満了時に当該有期労働契約が更新されるものと期待することについて合理的な理由があると認められるもの
【判決のポイント】
本件は労働契約法が改正される前のものだが、新19条は判例法理を法定化したものなので、考え方は同様である。
■何故非常勤講師の更新への期待は合理性がないのか?(ちなみに1審では合理性ありとして学校側敗訴であった)
<6つの判断基準>
①業務の客観的内容・・・・・非常勤講師は専任教員と業務内容が明らかに異なる(上記「概要」の下線部参照)。
②契約上の地位の性格・・・・・「非常勤」であり、「生徒数などが不透明で雇用は確約できない」と文書で通知済み。
③当事者の主観的態様・・・・・非常勤講師の担当授業時数は年度により変動しており、業務の変動性は認識していた。
④更新の手続・実態・・・・・更新手続きは形式的に行われていた。
⑤他の労働者の更新状況・・・・・Y校では、非常勤講師の雇止めについては前例がなかった。
⑥その他・・・・・研修参加可能、私立学校共済組合への加入は継続、賞与・退職金に勤続年数が考慮されていた 等
1審では、長期の契約更新の事実や、上記基準の④~⑥の内容を総合考慮して、非常勤講師にも更新への期待について合理性を認め、整理解雇の法理(4要素)を類推適用して雇止め無効と判断されたが、それが2審で覆ったことになる。
非常勤講師についてのその他の事案は、更新への期待の合理性を否定し、解雇権濫用法理の類推適用を否定する見解が一般的であるため、1審の判断が異例であったといえる。
【SPCの見解】
■本件は教員(非常勤講師)という業種の特殊性もあるので、その他の業種にそのまま当てはめることは出来ないが、改正労働契約法の新19条(雇止め法理)の適用の考え方としては参考になる。改正労働契約法は新18条の「5年経過で無期化」が注目されがちだが、5年経過せずとも、有期雇用労働者に「合理的な更新への期待」が発生した時点で雇止めが認められなくなるため注意が必要である。「合理的な期待」とは、「普通の人であれば誰でも更新を期待してしまうようなやむを得ない事情があったか否か」という視点で判断されるので、使用者側は有期雇用労働者に対して日頃の言動に十分に注意していただきたい。(「ずっとうちで働いて欲しい」などの発言は危険である)
労働新聞 2012/11/12/2896号より