一人で仕事をしている大工は労働者か?一人親方か?
2016/02/23
藤沢労基署長事件【最高裁判 2007/06/28】
原告:大工X / 被告:B木材工業
【請求内容】
大工が業務上の負傷について労災申請したが、労働者ではないとして不支給処分となったためその取消しを求めた。
【争 点】
本件の大工に労働者性が認められるか?
【判 決】
道具の持込み使用状況、専属性の程度を勘案しても労働基準法上の労働者とは言えず、労災不支給は妥当。
【概 要】
大工であるXは、作業場を持たず、他人を雇わず、1人で工務店の仕事を請け負う形態で仕事を行っていた。ある日、A工務店の受注したマンション建築工事で、B木材工業が請け負った内装工事に従事していた際に、Xは右手指3本を切断するケガを負った。Xはこれが業務に起因するものとして労基署に療養補償給付、休業補償給付を申請したが、Xが労災保険法上の労働者に該当しないとして不支給処分を受けたため、その取消しを求めて提訴した。
【確 認】
<「労働者性」の判断基準>
① 仕事の依頼に対して諾否の自由の有無 ② 業務遂行上の指揮監督の有無 ③ 拘束性の有無
④ 代替性の有無(本人に代わって他の者が労務提供することや自分の判断で補助者使用が認められているか 等)
<労働者性」の有無に関する判断を補強する要素>
⑤ 事業者性の有無(機械、器具の負担関係など) ⑥ 専属性の程度
⑦ その他 「報酬について給与所得としての源泉徴収を行っているか?」「労働保険・社会保険の適用対象として
いるか?」「服務規律を適用しているか?」「退職金制度、福利厚生を適用しているか?」等
【判決のポイント】
建設業が数次の請負によって行われる場合の労災は、負傷したのが例え下請会社の従業員であっても、
元請が成立させた労災保険を使う。(下請は保険料を払わずに、元請の保険の保護を受けられる)(労働基準法87条)
しかし労災保険は「労働者」を対象としているため、一人親方は元請の労災保険の保護対象とならない。
最高裁は、以下の事実に基づきXを「労働者災害補償法上の労働者に該当しない」と判断した。
■ Xは仕事の内容について、B社から寸法、仕様等につきある程度細かな指示を受けていた(仕上がりの画一性、
均質性確保のため)が、具体的な工法や作業手順の指定を受けることはなく自分の判断で工法や作業手順を選択
できた。(上記論点①②)
■ Xには、作業の安全確保、近隣住民に対する振動、騒音等に対する配慮から所定の作業時間に従って作業する
ことが求められていたが、事前にB社の現場監督に連絡すれば、工期に遅れない限り、仕事を休む等は自由に
できた。(上記論点③)
■ Xは一般的に必要とされる大工道具一式を自ら所有し、これらを作業現場に持ち込んで使用しており、B社の
所有する工具を借りて使用したのは、当該工事のみで使用する特殊な工具に限られていた。(上記論点⑤)
■ XはB社から他の工務店等の仕事を行うことを禁じられていた訳ではない。(上記論点⑥)
■ XはB社の就業規則の適用対象になっておらず、年次有給休暇制度や退職金制度等の適用もなかった。また、
Xは国民健康保険の被保険者で、B社の労働保険や社会保険の被保険者になっていなかった。(上記論点⑦)
■ Xの報酬について給与所得にかかる所得税の源泉徴収をする取扱いをしていなかった。(上記論点⑦)
【SPCの見解】
■建設業に従事する者が「一人親方」なのか、それとも「労働者」なのかという論点は重要である。何故なら、今回のように「一人親方なのに労働者として労災を申請」した場合、逆に「労働者なのに一人親方として労災を申請」した場合、このどちらの場合も労災申請は不支給となってしまうからである。よって労災加入の際は、必ずその者がどちらに該当するのかをしっかり確認の上、実態に合った労災保険に加入しなければ意味がないのである。今回の判例は判断基準が明確に示されており、大いに参考になる。また、建設工事に一人親方を使用する場合は、きちんと労災に特別加入しているか確認しておかなければ、事故発生の際に損害賠償請求される可能性があるため注意を要する。
労働新聞 2008/1/21/2665号より
☆一人親方さん・中小企業の事業主さんは労働者の労災は適用にならず、事務組合を通して「特別加入」をする必要があります。特別加入をご希望の場合は、下記連絡先までご相談下さい!
中部労務管理保険組合へのお問い合わせは
■TEL/052-331-0844 ■FAX/052-321-1108
http://www.cpc-aichi.com/index.html