休職期間満了による退職後に労災認定されたら解雇無効か?
2016/02/23
ライフ事件 【大坂地判 2011/05/25】
原告:元従業員X / 被告:Y社
【請求内容】
休職期間満了で退職となった元従業員が、その後労災認定を受けたことで、退職は無効として地位確認を求めた。
【争 点】
私傷病による休職期間満了で退職後に労災認定された場合、労基法19条の解雇制限に反するとして退職は無効か?
【判 決】
Xのうつ病は業務に起因するものであるから、退職取扱いは労基法19条1項の類推適用により無効である。
【概 要】
原告Xは在職時、人員が少なく負担が大きな業務を行っており、量質ともに過重であった。ある日Xは突然めまいに襲われて出勤できず、病院で受診したところ「自律神経失調症・うつ病」で休養加療が必要と診断された。その後Xは約2年休職した後に退職扱いとなった。Xがうつ病を発症する直前3ヶ月間の時間外労働は110時間・132時間・179時間に及んでいた。ちなみにXは癌を発症しており、Y社側はうつの原因は「癌転移の不安」であると主張した。
【確 認】
労働基準法第19条【解雇制限】
使用者は、次の期間は労働者を解雇してはならない。
(1) 労働者が業務上負傷し又は疾病にかかり、療養のために休業する期間 及び その後30日間
(2) 産前産後の女性が労働基準法第65条の規定によって休業する期間
(産前6週間(多胎妊娠は14週間)、産後8週間)及び その後30日間
ただし、使用者が、第81条の規定によって打切補償を支払う場合又は天災事変その他やむを得ない事由のために事業の継続が不可能となった場合においては、この限りでない。
【判決のポイント】
1)Xのうつ病発症は業務によるものか?
<精神障害の労災認定>
一般的に、1ヶ月の時間外労働が100時間を超えると労災認定される可能性がかなり高い。
▼厚生労働省の「精神障害の労災認定」パンフレット【参考】
http://www.mhlw.go.jp/bunya/roudoukijun/rousaihoken04/dl/120427.pdf
⇒ Xの業務は量質ともに過重で、時間外労働も長時間にわたることから、うつ病は業務に起因すると認めた。
2)私傷病による休職として取扱い、休職期間満了で退職となった後に、その傷病が業務によるもの(労災)と認定されたら、解雇制限の規定(労基法19条)に反するとして退職は無効となるのか?
<一般的に行われている取扱い>
① 私傷病による欠勤が一定期間連続する ⇒「休職」扱い
② 休職期間が就業規則で定める一定の期間継続する ⇒休職期間期間満了による「解雇」または「自然退職」
これが認められているのは、あくまで休職の原因となっている疾病が「私傷病(労災ではない)」だからであり、これが後で「実は労災でした」となると話が変わる。何故なら、業務上傷病により休業する場合は、その休業期間及びその後30日間は解雇が禁じられているからである。(自然退職も「解雇と類似するもの」であり認められない)
今回も、Xのうつ病が業務に起因すると認められた以上、未だうつ病罹患中のXに対する退職取扱いは無効である。
(労働基準法第19条1項の類推適用)※但し、うつ病が治癒しないのは癌が寄与したとして賠償額は3割減額。
【SPCの見解】
■近年従業員のうつ病は増加しているが、他の業務上のケガと異なり、本人から「労災だ」という訴えがない限り、会社が自主的に労災申請をするということは通常あまりない。それはうつ病の原因が業務なのか私生活なのかは本人にしか分からないからである。しかし、本件のように退職後に労災認定されて退職無効を訴えられてしまうと、労基法第19条1項により、解雇・退職無効となるのは免れないだろう。こういったケースでは、会社はまずうつ病を罹患した者からよく話を聞き、直近の時間外労働を調査して「業務上疾病にあたるかどうか」を検討すること、そして業務起因性が高い場合は、安易に退職扱いせず労働基準監督署に相談をするなど慎重な対応が求められる。
労働新聞 2013/1/14/2904号より