賞与の減額は許されるのか?(賞与の不利益変更)
2016/02/23
立命館(未払一時金)事件 【京都地判 2012/03/29】
原告:教職員ら / 被告:学校法人R
【請求内容】
14年間も継続した賞与6.1ヶ月分を1ヶ月分減額されたのは不利益変更で無効であるとして差額の支払いを求めた。
【争 点】
一定期間継続して支払われた賞与の額は、労使慣行により労使契約の内容となり、減額は許されないのか?
【判 決】
労使慣行は成立していないが学校側の言動等により6か月分支払うという規範意識があったとして支払いを命じた。
【概 要】
教職員らが、賞与が給与の6.1か月分から5.1か月分になったことを不服として提訴した。給与規定では「予算の範囲内で理事長が定める要領により支給することができる」となっていたが、過去14年間にわたり給与の6.1か月分が支払われていたことから「6.1か月分という金額は労使慣行として労働契約の具体的請求権となっている」「本件賞与の不利益変更は無効」「誠実交渉義務違反」として、労働契約・債務不履行に基づき差額を請求した。
【確 認】
【賞与の性格】各会社の給与規定の内容にもよるが、一般的には以下の性格が混在しているといえる。
① 功労報償的性格・・・・・労働者の在職期間中の企業への貢献度に報いるためのもの(恩恵的なもの)
② 収益分配的性格・・・・・会社の利益を労働者に還元するためのもの(労働者に対するインセンティブ)
③ 生活給的性格・・・・・労働者の生活の安定のためのもの(賃金の後払いのようなもの)
④ 意欲向上目的・・・・・過去の功績にではなく、将来の功績を期待して支給するもの(モチベーションアップ)
⇒ 賞与の支給は法律上義務ではないが、賃金規定に「賞与は給与の5か月分支給する」「1回40万円とする」等のように、明確な基準がある場合は、原則として支給は義務であり減額や不支給とすることはできない。
【判決のポイント】
【労使慣行とは】労働契約や就業規則に明示されていないが、一般的に習慣として会社で行われていること。暗黙の了解として長年繰り返されている場合、それが当事者間の労働契約の内容として認められる場合がある。
<労使慣行の成立要件>
① 同じ行為や事実が一定の範囲において長期間反復継続して行われていたこと
② 労使双方がその習慣について明示的な排除をしておらず、その習慣が労使双方の規範意識に支えられていること
<原告の主張(6.1か月分の賞与支払い)が認められた理由>
■14年間にわたり6.1か月分支払われていたという事実のみでは労使慣行が成立しているとはいえないものの、学校側は賞与額の交渉の際「6ヶ月を目指す、6ヶ月に接近させる」などと繰返し発言しており、学校側に6ヶ月以上支払おうという「規範意識」があったといえるため、その範囲で労使慣行が成立しているといえる。
■被告は学校法人であり、主な収入源である学生の納付金は安定しており、補助金なども変動がないため、本件の賞与は賃金の後払いとしての性質を強く有する生活給的な性格が強いといえる。(賃金は通常、特段の理由なく不利益に変更することが出来ないため、その性質をもつ賞与も同様に減額が許されないといえる)
■賃金等を不利益に変更できるのは、そのような不利益を労働者に受け入れさせても致し方なしといえるような、高度の必要性がある場合(経営悪化など)であるが、本件にはそれが認められない。
【SPCの見解】
■賞与は本来法的な支払義務はないが、毎年同額が当然のように支給されていた場合の減額は労働者の不満を招きトラブルになりやすいため注意を要する。また、賞与の性質は会社によって異なるが、利益の分配的性格が強いものであれば経営悪化時の減額は認められやすいため、賃金規定に「賞与は利益分配的な性格ものであり、経営悪化時は減額・不支給の可能性もある」ということを明記しておくと良いだろう。また賞与を減額するにしても急激に下げるのではなく、激変緩和のための措置は必要である。本事件は、被告が一般企業ではなく「学校法人」であったことに特殊性があるため、一般企業にそのまま当てはめることはできないが、基本的な考え方については参考になる。
労働新聞 2013/1/28/2906号より